「竹内、重人を頼めるか?」

「俺、あんま得意じゃないんっすよね。こういう役割」

上りの階段が見えている。

竹内の手に、エアカッター発生装置が握られる。

その両脇に張られたタイルが、ボロボロと崩れ、剥がれてゆく。

そのタイル一枚一枚が、手裏剣のような小型ドローンへと姿を変えた。

「私がやるわ。風圧で一気に押し流すから、その間に走りなさい」

地下通路の天井から、金属格子が落下した。

伸縮するいくつもの足の先にタイヤがついている。

小さなブロックをいくつも連結させてつなげることで、柔軟性を確保したムカデ型の強化プラスチックロボットは、長い体をくねらせ垂れ下がった。

飯塚さんの手が空を斬る。

ムカデの体はそれを避けようと、一瞬にしてパーツごとに分かれた。

破壊された2ブロックだけを残して、すぐに再結合する。

「狙いはいづみの持っているそれだ」

彼女は右腕を高く掲げる。

それを大きく横に振ると、空気の壁が動いた。

小さなドローンたちは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

ムカデは地を這った。

飯塚さんの左手が真横に低く空を斬る。

30㎝四方程度のムカデは、水平に裂けた。

「走れ」

駅地下の駐輪場へ入る。

そこから地上へと向かうスロープを駆け上がった。

最後尾の飯塚さんは振り返る。

咥えたタバコに火をつけ、すぐに放り投げた。

タイミングよく爆発したそれは、厚い煙幕を張る。

通常の出入り口には規制線が張られていた。

入場制限されている群衆の背後を、早足で通り過ぎる。

その瞬間、地下で爆発音が響いた。

「撒けたかしら」

いづみはボソリとつぶやく。

「どうせ自動追尾システムか何かだ。今回はもう、後は任せよう」

ふっと微笑んだ飯塚さんに、いづみも笑みを浮かべる。

「そうね。新人くんもいるし、今日はそれで十分よ」

そう言うと、急に彼女は真顔になった。

「反省会しなくっちゃ」

乗り捨てた軽自動車には、見知らぬ人間が2人座っていた。

いづみは回収した銀のケースを彼らに手渡す。

「すみませんね。お世話になります」

「ご苦労さまでした」

車はゆっくりと走り出した。

いづみはそれに、ひらひらと手を振る。

が、振り返ってからが怖かった。

「じゃ、コンビニで」

ギロリとにらむその顔は、まさに氷の女王そのものだ。

彼女は飯塚さんの腕に自分の腕を絡めると、並んで立ち去った。

竹内はため息をつく。

「まさかお前、ここから一人では帰れないとか、そんなことは言わないよな」

今いる駅の名前は分かる。

「か、帰れるよ」

「どっちが先にたどり着くか、競争しようぜ」

「は?」

「これも訓練の一つだ」

竹内は端末を胸のポケットにしまった。

「じゃあな。もう勝手に始まってるっぽいし」

人混みの中に、背の高いほっそりとした黒髪が消える。

時計はちょうど20時を回ったところだ。

俺はため息をついてから、仕方なく次の駅に向かって歩き始めた。