「そこからかよ。遅すぎ」

竹内はムッとした表情を見せる。

「お前、人の話ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるよ!」

「なんでここに到着した時から、それをやってない」

「だって!」

「『だって』じゃねー」

火災発生を知らせるサイレンが鳴り響く。

停止した電車のドアは開いたままだ。

ホームと車両の隙間から、いづみが顔を出す。

銀の薄っぺらいトロッコをホームに置いた。

「回収成功」

飯塚さんの横顔に笑みが宿る。

彼女にそっと手を差し伸ばし、助け起こした。

「さ、引き上げるぞ」

俺のポケットで端末が振動する。

異常を感知した時のアラームだ。

画面には『空気検査結果:可燃性ガス』の文字が浮かんでいる。

竹内は相変わらずスマホを掲げたままだ。

「え?」

気づいた時には遅かった。

視界は炎に包まれる。

「ちょ……」

炎が照りつける。

熱と混乱で呼吸もできない。

シューという異音がどこからか聞こえる。

白煙の立ち上るなか、一瞬の視界が開けた。

口元に固いマスクが当てられる。

それを押しつけた見知らぬ誰かの手は、再び白煙に消えた。

「何してる。行くぞ」

目の前に、竹内が立っている。

いつの間にかキャップをかぶり、マスクをしていた。

「……。行くぞ」

炎はすぐに消え去った。

最初の爆発が起こった所だけが、黒く焼け焦げている。

俺はあてがわれた防護マスクをきちんと装着し直す。

本物(・・)の駅員たちが駆け降りてきた。

「急いで避難してください!」

駅員の制服を着た飯塚さんの手が、俺の肩に乗った。

「こちらです。案内します」

いづみと竹内もいる。

階段を上がり、改札を抜ける。

乗客たちは全て地上に追いやられていて、通路に人影はない。

飯塚さんは駅員の制服を脱ぐと、それを無人の駅舎に放り込んだ。

「出るぞ」

竹内といづみは無言でうなずく。

俺は一歩を踏み出した。

「重人、こっちだ」

「わんこチェック」

竹内からの指示に、イラッとはしたが素直に従った。

目の前の地上へ向かう階段下には、先ほどと同じ成分の可燃性ガスが溜まっている。

「こっちだ」

長い地下道を、別出口に向かって走る。

先頭を走る飯塚さんは、ふいに足を止めた。