もう一時間以上は電車に揺られている。

乗客の数は駅に停まるごとに増えていく。

もういづみの姿はもちろん、竹内の姿も目視では確認出来ない。

『どこの駅で降りるの?』

と連絡を打ったのに、返事はない。

異音を聞き分けるというアプリを端末内で探したけれども、調査結果はやはり『2両目下付近』としか出てこない。

まぁ、異音を探知するってことは、まだ下にあるってことか。

乗客に動きがあった。

俺たちが乗った駅より前に乗車していた一人が下車した。

最初の下車客だ。

鉄道会社の管理システムに侵入すれば、ICカードの記録からいつ誰がどこで乗って降りたかなんて、すぐに分かる。

同じ駅で乗り込んだのは俺たち3人しかいない。

一つ前の駅から乗っていたのは17人。

この中に関係者がいるとは限らないが、可能性は高い。

端末が震えた。通知が届く。

『マーキング成功』

俺は竹内を探した。

だけどやっぱり見えるのは服の端だけで、表情は確認出来ない。

『どういうこと?』

『次の駅で乗り換える』

電車はホームに滑り込む。

ここで降りるということか? 

慌てて立ち上がったら、ドアの向こうに竹内の姿が見えた。

車両から飛び降りる。

彼に近寄ろうかとも思ったけど、人の多さと流れに逆らうのも不自然な気がして、少し離れた位置から後を追いかける。

竹内は改札を出ると、駅前のパチンコ店に入った。

そのまま何の迷いもなく、植え込みの向こうに消えてゆくのを追いかける。

「staff only」と書かれたドアをくぐると、ロッカーの扉を開いた。

「すぐに出るぞ」

「ここは?」

「部隊の支部の一つ」

ペンのようなものを取り出すと、それを俺の胸に挿した。