「なぁ、重人」

竹内は居心地の悪そうに座っていたのを、ぼそりとつぶやく。

「任務は終わった。成功した。隊長の目的は完遂された。……だから、それでいいんだよな」

これが俺たちの望んだ世界だ。

「俺はそう信じているよ」

その返事に、彼は不服そうな表情を浮かべる。

そうだよな。

「信じてる」だなんて、そんな曖昧な言葉を、竹内は信じない。

母はお盆にてんこ盛りの朝食を用意して運んできた。

「コンビニの上に住んでるんだって? それじゃ大変でしょう」

母は真新しい箸を竹内のために用意していた。

茶碗もおろす。

そこにこれでもかと白飯を盛り付けた。

「そ、そんなには食べられないです……」

竹内は蚊の鳴くような声でつぶやいた。

だけど渡されたそれを、黙って受け取る。

「一緒にご飯食べたら、お部屋でゲームするんでしょ? それが終わったら、ちゃんとお仕事しなさいね」

「仕事?」

俺はその言葉にビクリとなる。竹内もだ。

「あら、そのためにうちに来たんじゃないの? コンビニの方は、なんていうの? あれ、メンテナンスってやつだから」

俺たちは目を合わせる。

「予算申請から行動計画と報告書まで、あなたが全部一人でやってるんですって? それでずっと2階に引きこもってパソコンいじってるなんて、絶対よくないわよ」

「え、どういうこと?」

「あの新庁舎の設計にね、私も関わったことがあるのよ。ほら、旧庁舎からの引っ越しがようやく表で決まったばかりで、中の設計が本格化しててねぇ~。まぁ大変だったわよ」

母は味噌汁をよそう。

今日はいつもの卵焼きが目玉焼きで、ウインナーまでついていた。

「あのロボットのカラクリね、提案したの、実はあたし。今の東京国際フォーラムから一個一個移送させるの、大変だったんだからぁ!」

「……母さん、なに言ってるの?」

「ふふ、そんな昔の話、今の人には興味ないわね。あら、私も急いでパートに行かなくっちゃ」

母は立ち上がると、エプロンを外した。

「じゃ、重人。いつものように食べ終わったら、食洗機にお願いね」

「母さん!」

「あら、これからあなたたちがするのは、本当にお仕事なの? それとも調べ物かしら」

満面の笑みを残して、母はうちを出て行く。

俺たちは慌てて端末を取り出すと、この人の経歴を検索し始めた。



 
【完】