「言え、言ってみろよ!」

「秀樹、その手を離せ」

機体に登ってきた隊長は、俺たちを見下ろした。

「重人はちゃんと押したよ。この俺が証明する」

隊長の目は、いつか見たあの目の同じ、優しい目をしていた。

「俺が緊急停止ボタンを押すその前に、起動は止まった。重人が先に押したんだ。だから、離してやれ」

竹内の強くかみしめた口元が、わずかに緩む。

俺をつかんでいたその手は、だらりと垂れ落ちた。

隊長の大きな手が、俺と竹内の頭に乗る。

「さ、まだ仕事が残っている。ついて来い」

歩き始めた隊長の後ろを、竹内はすぐに追いかける。

俺はその並んだ背中を見ながら歩いた。

……やっぱりこの人には、かないそうにない。

「何があるんっすか?」

「ん? まぁまぁ」

竹内がぶっきらぼうにそう尋ねたのを、隊長は笑ってごまかした。

地上に出た俺たちを待っていたのは、俺の姉と父親だった。

俺が都庁前広場にいないことを心配した姉は、姉を心配して電話をかけてきた父に俺のことを伝えた。

父が二人を心配して広場にたどり着いた時には、隊長は俺たちを連れて外に出ていた。

「重人が、重人がどうかしたんですか!」

機動隊の装備を身につけた隊長は姉に、庁舎内に閉じ込められていた俺たちを救出し、外に誘導したんだと伝える。

「事情聴取がありますので、すぐに帰宅は出来ないと思いますが、連絡をとることは可能です。他にも数人が聴取の対象になっていますので、少し時間はかかるかもしれません」

その時の姉は、じっと隊長を見上げていた。

不安そうに見上げる彼女に向かって、隊長は微笑む。

「今日中には必ず、家に帰れますよ」

それはもうそのまま、隊長と姉との約束になった。

夕焼けの都庁前広場で、姉と親父はその背に頭を下げる。