コンビニ店員として、名目上フルタイムのアルバイト採用が決まってから、数日が経過していた。

「電柱の地中化の話は聞いているか?」

「えぇ、日本じゃなかなか進んでいないって」

「まぁな。日本の防衛システムの一環を担っていたんだ。仕方のない部分もある」

日本の電柱は、ミサイルとしての発射機能を備えている。

この地下支部にあるスイッチを押せば管轄内の電柱型ミサイルは全て、3秒以内に設定された目標に向かって発射することが可能だ。

「それを解除して回らないといけないんだ。そりゃ簡単に進むワケねぇよな」

竹内は笑う。

飯塚さんは続けた。

「今日はその作業に行こう。担当エリアの電柱解除が、まだ少し残っているんだ。もう廃止されるシステムだから知る必要はないかもしれないが、今後の地下活用計画の布石ともなる現場を見ておくことも悪くないだろう」

「地中化工事がですか?」

それ以上のことは詳しく話せないとでもいうように、飯塚さんは微笑んだ。

「しっかし、こんな地味な部署によく配属されたよな」

竹内は大きく息を吐き出す。

月の裏側にある宇宙基地やステルス軍事衛星の開発、波動を使った広域防衛システムなど、今では航空宇宙自衛隊が一番の花形だ。

「まずは自分たちの足下からだって、いつも隊長に言われているだろ。そもそも俺たちは警察官だ。自衛隊の奴らとは違う」

表のコンビニ業務は、バックヤードの業務支援型AIによりオートメーション化されていた。

トラックで運び込まれた資材はいったん倉庫に運び込まれ、そこで表のコンビニのものと裏の部隊用のものに仕分けされる。

地下に運ばれる資材はそれぞれ個別に保管されていたが、表のコンビニ業務に関しては商品の発注から陳列作業まで、全自動化されている。

少なくなったおにぎりの棚は客のいないタイミングを見計らって、それを設定通り満載した棚とガチャリと入れ替わった。

それでも俺や他の隊員がお菓子や雑誌を並べているのは、単なる息抜きのための作業にすぎない。

「重人、そろそろ着替えろ」

現れた飯塚さんは、どこをどう見ても完璧な電気工事工だった。

「第三種電気主任技術者の資格はとってあるよな」

「はい」

ただのニートをしていたんじゃない。

引きこもりの2年間は、入隊条件を満たす資格を得るための勉強に、とにかく忙しかった。

「行くぞ」

コンビニ裏に用意された、電力会社のダミー車両に乗り込む。

運転席には飯塚さんが座った。

完全に市中に溶け込んでいるそれは、ゆっくりと走り出す。