端末からゴソゴソと布をこすりつけるような音が聞こえる。

「おい、聞こえてるか?」

返事はない。

アクシデントかと焦った次の瞬間、それはつながった。

「今どこ?」

聞こえているはずなのに、やっぱり返事はない。

「操縦室の位置は聞いた。そっちへ向かう。お前は?」

「問題ない。お前は自分で好きにしろ」

プツリと通信が切れる。

竹内が俺に腹を立てていることは分かる。

それは仕方ないとは思うが、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。

今は非常事態で協力が必要なのに……。

脳裏に焼き付けておいた、操縦室に一番近い部屋の前に立つ。

一呼吸をおいてドアを開けると、竹内はいた。

「……。なんだよ」

「隊長からの指示だから……」

そう言ってしまえば、コイツはすぐに諦めて大丈夫になることは知ってる。

床に広げてあったノートPCの横にしゃがみ込んだ。

壁の内部構造を精密に測定した図面が広がっている。

「勝手に見るな」

とび職姿の竹内のポケットで、着信音が鳴った。

それに「はいはい」と適当な返事をしながら立ち上がる。

「どこへ行く?」

「お前には関係ないだろ」

「この周辺はもう調べ尽くされたはずだ。入り口はなかったんだろ?」

「俺がお前に聞かれて、素直に答えるかよ」

「信じるよ」

俺は久しぶりに見た、その黒縁眼鏡に向かって言った。

「悪かった。お前がいないと、ダメなんだよ」

舌打ちされる。

そんなのを聞くのも、久しぶりだ。

「そんな生ぬるいセリフで、俺が騙されるとか思うなよ」

PCをそのまま置いて部屋を出て行く。

急いでそれを追いかける。

出てすぐの廊下で、竹内の着ている作業着と同じロゴの入った男と出くわした。