「何が違うのよ。私の昼休みだって、そんなに長くないんだからね」

「もう飯は食ったから……」

「じゃあちょっとそこのコーヒーショップでいいから、付き合いなさい」

「美希ちゃん!」

俺のその声に、姉は振り返った。

「美希ちゃん。悪いんだけど、行かなくちゃいけないんだ」

姉貴のことを名前で呼ぶなんて、いつぐらいぶりだろう。

「行くって、どこ」

「都庁」

自分とそっくりな顔が、俺を見上げている。

世話好きで気の強い姉ちゃんの後ろをついて歩いていれば、子供の頃は何の不安もなかった。

「だから、都庁のどこよ」

俺は安心しきってその後ろを歩いていた。

だけど、今は違う。

「それは言えない。もしこの先に何かが起こったとしても、俺のことは大丈夫だから、安心して。父さんと母さんにも心配するなって、ちゃんと伝えて」

「……は?」

「じゃ!」

もし都庁ロボが動き出し、俺たちの部隊が表沙汰になったら、どんな騒ぎが待っているだろう。

自分たちの信じていた世界が変わる。

日常が、常識が変わる。

世界が今までと全く違って見えるようになる。

もしかしたらそれを、人は『革命』と呼ぶのかもしれない。

「ちょ、待ちなさい重人!」

走り出したすねに強い衝撃が加わる。

俺はその場に盛大に転んだ。

つまずいたのは、隊長の足だった。

「どこでチンタラしてるかと思ったら、ナンパしてんのか。遅刻だぞ」

「ち、違いますよ。ねーちゃんです!」

「あぁ、そうか」

警備員の制服を着た隊長は、表情を何一つ変えることなく帽子を取り、丁寧に頭を下げた。

「初めまして」

浅黒く精悍な顔は、姉の顔をのぞき込んだ。