俺がそのままこの端末を持って飯塚さんのところへ行ってしまう可能性とか、どこかに逃げてしまうかもとか、そういったことをあの人は考えなかったんだろうか。

もちろんこのプログラムにも、当たり前のように位置情報はついているだろう。

だから問題はないと判断したのかもしれない。

隊長のことだ。

失敗や間違いなんて、ない。

震える手で口元を覆う。

だけど、どんな複雑なプログラムであっても、それを解除する技術を俺が持っていないと、本気であの人が思っているとも思えない。

天命のバージョンアップ。

話に聞いたことはあった。

だけどそれは、単なる噂に過ぎないはずだった。

隊長はこの機会に、一気に新しいシステムを作らせたのか?
 
何をどう考えても、全てが無謀にしか思えない。

こんな急ごしらえの巨大システムが、まともに動くはずはない。

完成前の特大極秘システムを、隊長はいつから俺たちに任せようとしていたのか。

「あら、出かけるの?」

「うん、ちょっとね」

震える足で、よろよろと自転車にまたがる。

行き先に、もう迷いはなかった。