「というわけで今日からみんな本格的に受験生となったわけだから、まあそれなりにやれよ〜」

 新学期の新しい教室でも、ほとんど新生活というような感じはしない。もともとそこまで生徒数のいないこの学校でのクラス替えなんて、教室内の顔ぶれの大半は変わらないし、なんということか担任までもが同じなのだ。

 自分で言うのもなんだけど、春休み中、僕はかなり精力的に動き回ったと思う。曲を作るのはもちろん、音楽の道を志すにはどうしたらいいのかということを自分なりにリサーチした。学校の形態、立地、かかる費用に入学条件。都内の学校に実際足を運んでみたりもしたし、ふじやんの紹介で音楽関係の仕事をしている卒業生に話を聞くこともできた。
 以前ふじやんが言っていたように、音楽と一言で言ってもその職業は多岐に渡る。白状してしまえば、僕はまだ、具体的な職業としての夢を見つけられてはいない。
 それでも、杏果が気付かせてくれた〝音楽が好き〟という気持ちからか、今までは見えなかった世界が見えるようになったのだ。

 例えば、作曲ひとつにしてもそうだ。僕はギターを使って作曲をしてきたけれど、一般的にはパソコンを使う方法が主流になっているということも調べて初めて知った。専門のソフトがあって、卓上のキーボードと合わせて曲を作る。僕はギターしか弾けないので、卓上鍵盤の弾き方くらいは覚えた方がよさそうだし、機械音痴も克服する必要があると思う。そういう技術を教えてくれるところにも、いくつか選択肢があることもわかった。
 他にも、今までは触れる機会のなかったクラッシックやジャズなどに興味を持つようになった。身近な邦楽や洋楽はもちろんのこと、民族楽器や音楽の歴史なんかもおもしろそうだ。こうしてみると、音楽の世界は実に広くて奥深い。海のように果てなく広いこの世界に、僕の夢はきっとある。