「……いや、だめだろ」
ほんの数行だけ書いたルーズリーフの用紙を破き、ぐしゃぐしゃ丸めて部屋の隅のゴミ箱に投げ入れる。こつんと壁にぶつかった紙屑は、的には当たらず床の上へと転がり落ちた。床の上には同じように無残な姿になった元ルーズリーフの用紙たちが、すでに十ほど落ちている。
書いているのはもちろん、咲果への謝罪の手紙。
拝啓 沢石咲果様
突然の手紙、驚いたことと思います。まずは、この間の僕の失言について謝らせていただきたく筆を取らせていただきました。
――いやいや堅すぎる。これじゃ手紙っていうよりも文っていう感じだ。却下。
咲果へ
この間はごめん。悪かったと思ってる。
――まずい、これじゃ一行で終了だ。こんな短文では真心は伝わらないだろう。それでもこの後に続く言葉が思い浮かばない。
沢石咲果さんへ
いつもなんだかんだとありがとう。僕は咲果といると、なんだかんだ楽しくて、なんだかんだと過去の話を勝手にしてしまっていたよね。
――おいおい、僕はナンダカンダ星人かよ。
こうして新たに三つの紙屑を生み出した僕は、はぁーっと盛大に頭を抱えてため息を吐き出した。
考えてみれば、こんな風に手紙を書いたのは幼稚園の母の日制作以来かもしれない。中学の頃はよくクラスの女子たちが、ルーズリーフ何枚もに綴られる長文の手紙をやりとりしていて、たまに僕が受け取ることもあったけれど返事を書いたことはない。というより、長すぎてまともに読んだ記憶すらないと思う。
ついでに言うと、ボウは「じゃあ俺は倉田に書こうかな」と音符を飛ばしながらその場で書き始め、あっという間に一ページくらいは書けていた。それに比べ僕ときたら、これだけの時間をかけてほんの数行ですら書けないとは。手紙というのは、思っていた以上に難しい。
あのあとも、咲果と僕が個人的に会話をすることはなかった。「ボウ、いっくん。ばいばい」と帰り際に手は振ってくれたものの、朝と同じ、ボウとセットだ。
そのことにモヤモヤとした感情を抱えながら帰宅した僕は、夕食を早々に済ませて部屋に籠もり、必死にペンを走らせては紙屑を作っているというわけだ。
「……息抜きでもするか」
何度書いても、いくつ紙屑を量産しても、状況は何も変わらない。ふうと息を吐き出した僕はダウンコートを羽織り、ギターケースを片手に部屋を出た。