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「せんせー、今日のホームルーム、何やるのー?」
転校してきてからちょうど一週間。少し気だるい、月曜日の6時間目。
クラスのムードメーカーの男子が始業のチャイムと同時に声をあげ、担任に訊ねた。
「えー今日は、この間の社会科見学の発表の準備だ」
なにそれ、聞いてなーい、と色々なところから声があがった。
担任の説明によると、先々週に行われた社会科見学について、夏休み明けの文化祭でグループごとに発表するのだそうだ。
見学のときのグループは、男女別々で、クラスで6班に分かれていたらしい。発表は各クラス3班ずつなので、男子グループと女子グループを一つずつくっつけて、混合グループを作ることになった。
「ねー先生! 涼はどうすんの?」
俺の戸惑いを察してくれたらしく、聡太が気を利かせて質問してくれた。
先生は、あっ、というように目を見張り、こちらへ視線を向ける。
「そっか、宮原は行ってないんだよな。お前、一週間でずいぶん馴染んだよなぁ。転校してきたってこと、忘れてたよ」
先生が冗談ぽく言ったので、俺もおどけた口調で返す。
「先生、ひどいですよ! 俺か弱い転校生なんで、ちゃんと面倒見てください!」
みんながどっと笑い声を上げた。
スルーされなくてよかった、とほっとする。クラスの中でちゃんと受け入れられたんだ、という安心感があった。
父さんが転勤の多い仕事をしているので、転校するのはこれで三度目だけれど、何度経験してもいまだに慣れないし、毎回ひどい緊張と不安に襲われる。
経験上、とにかく最初の一週間が肝心だった。クラスに馴染めるかどうか。みんなから受け入れてもらえるかどうか。それによって、これから卒業までの運命が変わると言っても言い過ぎではないと思う。
どうやら今回もちゃんと成功できた、と俺は安堵していた。
無意識のうちに、加納さんの席に目を向ける。また、俺の発言や周囲の反応なんかには少しも興味などなさそうに、頬杖をついて窓の外を見ているんだろう。
そう思ったのに、彼女は机の上に両手を置いて、俺のほうをじっと見ていた。
ばくっと心臓が音を立てる。どくどくどく、と自分でも驚くくらい胸が早鐘を打つ。
こんなに真正面から目が合ったのは、あの日ーーー俺たちが出会った日以来だ。
俺は身じろぎさえできず、息を止めたまま、加納さんを見つめ返した。彼女もいつもより少し緩んだように見える表情で、俺を見つめている。
世界が、止まったような気がした。
周りの音なんて、まったく聞こえない。まるで二人だけの世界にいるようなーー
そのとき加納さんが、ふい、と目を逸らした。そのまま、教室の前のほうに置いてある花瓶のあたりを眺めている。
ありえないくらいどきどきしていたくせに、彼女に視線を外されてしまったことが、ものすごく残念で悲しかった。
「………でいいいよな? 宮原」
「………えっ? はい?」
突然、先生に話しかけられて、俺はびっくりして視線を戻した。
先生が怒ったような顔をする。
「なんだお前、話きいてなかったのか? 転校生のくせに緊張感ないな!」
「………すみません」
再び笑いが起こった。俺は少し顔が熱くなるのを感じながら、
「すみません、もう一回言ってください」
と先生に訊き返した。
「しょうがないなあ。高田と吉川たちのグループに入るってことでいいか、って訊いたんだよ」
「あ、はい、もちろんです!」
高田と吉川というのは、祐輔と聡太の名字だ。サッカー部仲間ということで、先生が気を使ってくれたのだ。
祐輔が目配せをしてきて、にやりと笑った。快く受け入れてくれる友達ができて、本当に良かったと思う。