「……俺が百合を守るよ」
気がついたら、そう口にしていた。内側から勝手に言葉が溢れて、零れ落ちたみたいに。
言った途端に、恥ずかしくなる。唐突すぎるし、脈絡がなさすぎるし、しかも守るなんて格好つけすぎだし、もう最悪だ。
きっと耳まで赤くなっているだろう俺を見て、百合は「ううん」と首を振った。
「別に守ってくれなくてもいいよ」
「え……っ」
俺は驚きとショックで硬直する。もしかして、俺なんかに守ってもらいたくないとか。他に守ってくれる男がいるとか――。
自分の想像に打ちのめされそうになったそのとき、彼女が小首を傾げてふふっと笑った。
そして、まっすぐに俺を見つめて、静かに、でも強い口調で言う。
「ただ一緒にいるだけでいい」
俺はこれ以上ないくらいに目を見開く。
吹き抜けていく真冬の夜の風。でも、まったく寒さなんて感じない。
白い息とともに、彼女は確かめるようにゆっくりと話し始めた。
「守りたいとか、守らなきゃとか、そんなことずっと考えてなくたって普通に生きていられる世界に、私たちは生きてるんだから。それでも何かどっちかが危険な目に遭うことがあったら、涼だけじゃなくても私も、お互いに守ればいいし、それが無理だったら一緒に逃げればいい」
俺は息を呑んで百合を見つめる。
彼女の言葉が、雪のように少しずつ、でも確かに俺の心に降り積もっていく。
「私たちはただ、一緒にいるだけでいいんだよ。たくさんの時間を一緒に過ごして、もし嫌なことがあっても一緒にいて……そうやって一緒に生きて、一緒に幸せになろう」
うん、と俺は頷いた。
一緒にいたい人と、ただ一緒にいる。好きな人と一緒に生きていく。そんな簡単な当たり前のことが、彰さんの生きた世界では許されなかった。彰さんのように、大切な人への想いを口に出すことすらできずに死んでいった人がたくさんいた。
好きな人に好きだと言えるのは、本当に本当に幸せなことなんだ。
周りのことも、社会のことも、何も気にせずに、自分の気持ちを正直に口にできるというのは、平和な世の中だからこそなんだ。
無数の星が輝く冬の夜空に、視線を投げる。
彰さんは、この空の彼方へと飛び去っていった。そして、あの海に散っていった。
愛する人に想いも告げられないまま死にに行くのは、どんな気持ちだろう。彰さんはどんな思いで飛び立ったんだろう。俺には想像もできないくらい、つらくて悲しくて、苦しくて悔しかったはずだ。
でも俺は、そんなことをしなくてもすむ世界に生まれた。誰にも邪魔されず、誰にも批判されず、自分の望むように生き、大事な人のそばにいることができる。
この国の昔の人たちや、今も争いの続くどこかの国の人たちが簡単には手に入れられないものを、俺は生まれたときから手にしていたのだ。
それは、なんて幸せなことだろう。
俺は視線を戻し、百合を見た。
そして、彰さんには言えなかったことを、噛みしめるように言う。
「――百合が好きだ。大好きだ。一生一緒にいたい」
気がついたら、そう口にしていた。内側から勝手に言葉が溢れて、零れ落ちたみたいに。
言った途端に、恥ずかしくなる。唐突すぎるし、脈絡がなさすぎるし、しかも守るなんて格好つけすぎだし、もう最悪だ。
きっと耳まで赤くなっているだろう俺を見て、百合は「ううん」と首を振った。
「別に守ってくれなくてもいいよ」
「え……っ」
俺は驚きとショックで硬直する。もしかして、俺なんかに守ってもらいたくないとか。他に守ってくれる男がいるとか――。
自分の想像に打ちのめされそうになったそのとき、彼女が小首を傾げてふふっと笑った。
そして、まっすぐに俺を見つめて、静かに、でも強い口調で言う。
「ただ一緒にいるだけでいい」
俺はこれ以上ないくらいに目を見開く。
吹き抜けていく真冬の夜の風。でも、まったく寒さなんて感じない。
白い息とともに、彼女は確かめるようにゆっくりと話し始めた。
「守りたいとか、守らなきゃとか、そんなことずっと考えてなくたって普通に生きていられる世界に、私たちは生きてるんだから。それでも何かどっちかが危険な目に遭うことがあったら、涼だけじゃなくても私も、お互いに守ればいいし、それが無理だったら一緒に逃げればいい」
俺は息を呑んで百合を見つめる。
彼女の言葉が、雪のように少しずつ、でも確かに俺の心に降り積もっていく。
「私たちはただ、一緒にいるだけでいいんだよ。たくさんの時間を一緒に過ごして、もし嫌なことがあっても一緒にいて……そうやって一緒に生きて、一緒に幸せになろう」
うん、と俺は頷いた。
一緒にいたい人と、ただ一緒にいる。好きな人と一緒に生きていく。そんな簡単な当たり前のことが、彰さんの生きた世界では許されなかった。彰さんのように、大切な人への想いを口に出すことすらできずに死んでいった人がたくさんいた。
好きな人に好きだと言えるのは、本当に本当に幸せなことなんだ。
周りのことも、社会のことも、何も気にせずに、自分の気持ちを正直に口にできるというのは、平和な世の中だからこそなんだ。
無数の星が輝く冬の夜空に、視線を投げる。
彰さんは、この空の彼方へと飛び去っていった。そして、あの海に散っていった。
愛する人に想いも告げられないまま死にに行くのは、どんな気持ちだろう。彰さんはどんな思いで飛び立ったんだろう。俺には想像もできないくらい、つらくて悲しくて、苦しくて悔しかったはずだ。
でも俺は、そんなことをしなくてもすむ世界に生まれた。誰にも邪魔されず、誰にも批判されず、自分の望むように生き、大事な人のそばにいることができる。
この国の昔の人たちや、今も争いの続くどこかの国の人たちが簡単には手に入れられないものを、俺は生まれたときから手にしていたのだ。
それは、なんて幸せなことだろう。
俺は視線を戻し、百合を見た。
そして、彰さんには言えなかったことを、噛みしめるように言う。
「――百合が好きだ。大好きだ。一生一緒にいたい」