この公園に来たのも六年ぶりだ。
 あの日以来、二人で過ごした場所に近づくのがつらくて、ずっと足が遠のいていた。
 俺は思い出のベンチに腰かけて、彼女を待つ。冬なので
 見上げると、あの日と同じ美しい星空が、果てしなく広がっている。
 電話で今から会いたいと告げると、
『バイトが終わってからになっちゃうけど、それでいいなら』
 と彼女は答えてくれた。
 時が流れていることを、彼女が大人になっているのだということを実感して、そんなにも長い時間を無駄にしてしまった後悔に胸が苦しくなった。
 約束の時間まで、あと一時間ほどある。俺は星を見上げながらふっと息を吐いた。一瞬で白く凍る。
 冷たい夜風が吹いていて、コートを着込んでいても寒いくらいなのに、頭も顔もひどく熱いような気がした。手袋が熱くなってきて、外して鞄の中にしまう。
 俺は彼女に会ってどうしたいのだろう。今さらどんな顔をして会えばいいのだろう。
 失った時間を取り戻すことはできない。
 もしかしたら百合はもう俺のことなんか忘れて、他の人と付き合っているかもしれない。彼女は優しいから、泣きながら会いたいと言う俺を不憫に思って、断れなかっただけかもしれない。それか、恨み言の一つでも言ってやろうと思っている可能性もある。言われたって当然のことを、俺はしてしまったのだから。
 考えれば考えるほど気持ちが沈んでくる。でも、いや、ぐだぐだ考えるのはやめよう、と思い直す。
 とにかくまずは謝ることだ。あのとき何を考えていたのか、どうしてあんなことを言ってしまったのか、全て話す。それから、今の正直な気持ちを伝える。
 もしも百合が俺を拒んだり、他に好きな人がいると答えたりしたら、俺はこれっきり潔く諦める。俺にできることはそれだけだ。
 ぐるぐる考えているうちにどんどん時間は過ぎ、約束の十五分前になったとき、かさかさと落ち葉を踏む音が聞こえてきた。
 六年も経っているのに、俺の耳はその足音をしっかり覚えている。百合だ。
 今にも心臓が爆発しそうなほど激しい鼓動を感じながら、俺は慌てて立ち上がり振り向いた。