ぼんやりしたまま写真の前を離れ、他の展示物を見て回る。ガラスケースの遺品――特攻への意気込みを表した書、必勝や轟沈などと書かれた鉢巻き、細かい文字で埋め尽くされた日記帳、愛用していた文房具、家族から贈られた人形。
 特攻隊員と聞くと、まるで異国の出来事のように遠くに感じてしまうけれど、こうやって遺品を見ていると、自分と年の変わらない人たちがこんなにもたくさん戦争で亡くなったのだと実感させられて、息をするのも苦しいくらいに動揺した。もしも自分だったら、もしも戦時中に生まれていたら、と考えずにはいられない。
 最後に遺書がいくつも並べられているケースの前に辿り着いた。習字の先生が書いたお手本のようなきれいな筆文字で、解読するのは難しい。でも、遺書の内容をパソコンで打ち出した紙が横に添えられていた。
 両親やきょうだいに向けて書かれた最期の手紙。感謝と別れの言葉が並んでいて、読めば読むほどつらくなった。何度も目を背けてしまい、呼吸を整えて心の波がおさまるのを待ってから、再び視線を戻した。
 そのとき、『百合へ』という文字が視界の端に映って、思わず目を向けた。
 偶然だろうか。隊員の誰かの身内に、百合という人がいたのだろうか。
 次の瞬間、便箋の下に『佐久間彰』と書かれているのを見つけて、息が止まった。
「え……これ、彰さんから百合への手紙?」
 震える手でガラスケースにしがみつく。瞬きも忘れて文字を追った。


こんな手紙を書いても、君を悲しませるだけかもしれないね。
でも俺は、この気持ちがただ海の泡として消えていくのだけは耐えられなかった。
俺は君のことを愛していた。君の素直でまっすぐで優しい魂を、心から愛していた。
戦争などのない時代に生まれていたのならば、君と一生を共に過ごしたかった。
明日の十三時三十分、俺は飛び立つ。そして散る。
俺は今、自分の墓場となる空を見上げながらこの手紙を書いている。
君と共に過ごした、百合の花が咲くあの丘、君と語らったあの丘で。
なんだか空が無性にきれいだ。君と見た、あのときの星空と同じだ。
あの空に俺は散る。君のために。君という花が咲く、この世界のために。
君の幸せだけを祈っている。君の笑顔が輝きつづけることだけを。
百合、会いたい。
百合、生きてくれ。


 ああ、と吐息のような声が洩れた。
 知っている。覚えている。この手紙を。
 俺は確かに、この手紙を書いた。記憶はないはずなのに、心が覚えている。この感情を、はっきりと覚えている。
 百合を想う彰さんの気持ちは、どうしようもなく俺の中に根づいている。魂に染みついている。
 俺は、彰さんなんだ。
 彰さんの魂を、想いを、俺が引き継いでいるんだ。
 だから俺は百合に出会った。彰さんの最期の願いを叶えるために。
 百合にもう一度出会うために。百合を守るために。百合と一生を共にするために。
彰さんが俺たちを引き合わせてくれた。
 涙が込み上げてきて、止めようもなくぼろぼろと溢れ出した、