百合ヶ丘公園に行き、俺たちが最初にここで会ったときのベンチに腰かけた。
「涼は、今、何を考えてる?」
静かに問われて、俺は俯いたまま「何って……」と、この期に及んで下手くそな濁し方をしてしまう。
ちらりと目を上げると、百合は黙って空を見ていた。俺も視線を上へ投げる。
よく晴れた雲ひとつない夜空には、無数の星が輝いている。周囲の木々が人工の明かりを遮っているので、住宅街の真ん中とは思えないくらい星が明るかった。
ここで初めて彼女を見かけたときも、こんな星空だった。星が降ってきそうなほどたくさん輝いていて。でもそれ以上に俺は、夜空を見上げる百合の横顔に目も心も奪われていた。
でも今となっては、彼女に惹かれたのは俺だったのか、俺の中の誰かだったのか、分からなくなってしまった。
俺が前世の夢を見ていたと知ったときの、百合の表情を思い出す。俺が見たこともないくらい柔らかく、優しく、そして懐かしそうな、嬉しそうな顔をしていた。喜びと切なさに潤んだ瞳。
当然だ。死に別れてしまって二度と会えないと思っていた愛する人が、生まれ変わって新しい姿になって目の前に現れ、前世のことは忘れてしまっているのにそれでも自分のことを夢に見ていた。それくらい深く想っていたのだと分かった。泣きたいくらい嬉しいに決まっている。
きっと彼女は今、空を見つめながら彼のことを思い出しているに違いない。
そして俺の中にあるあきらさんの魂も、きっと今、喜びに震えているのだろう。
『生まれ変わったら一緒になろう』
『絶対に君をまた見つける』
生まれ変わったあとも夢でそんなことを言ってしまうくらい、百合のことを愛していたのだろうから。
長い時を経て、愛し合う二人がやっと再会できた。
まるでロマンチックな映画みたいだ。
でも――。
でも俺は、嬉しいとは思えなかった。自分のことのはずなのに、どうしても実感が湧かない。
前世の記憶なんて持っていない俺からしたら、自分の好きな人が他の男を心から愛し続けているとしか思えない。失恋したも同然だ。
彼女の心から嬉しそうな満ち足りた表情を見て、分かってしまった。彼女はあんな顔で、あきらさんを見ていたのだ。恋心を隠しきれないような眼差しで。
百合が好きなのは、あきらさんだ。もし俺を好きになってくれたとしても、あくまでもあきらさんの生まれ変わりとして、あきらさんへの想いを俺に見ているのだろう。
でも、俺はあきらさんじゃない。百合が好きなのは俺じゃない。
俺は瞬きも忘れて星空を凝視しながら、囁くように「ごめん」と呟いた。涙声にならないように必死で、冷たい声になってしまっているような気がした。でも、言い訳をする余裕すらない。
「……ごめん、無理だ」
百合がすうっと深く息を吸い込む音がした。
目を向けると、彼女は眉を寄せ、唇を噛んで、うん、と小さく答えた。
星のかけらみたいな涙がひとつ、彼女の頬を伝っていく。
どうして、好きな人にこんな顔をさせてしまっているんだろう。どうして、好きな人にこんな言葉を吐かなくちゃいけないんだろう。
虚しい思いに包まれながら、俺は正直な気持ちを告げる。
「俺には無理だ――」
星明かりが降り注ぐ丘で、百合の花の香りを嗅ぎながら、俺たちは声もなく涙を流した。
きっと世界の終わりは、こんなふうに虚ろで静かなんだろう。
「涼は、今、何を考えてる?」
静かに問われて、俺は俯いたまま「何って……」と、この期に及んで下手くそな濁し方をしてしまう。
ちらりと目を上げると、百合は黙って空を見ていた。俺も視線を上へ投げる。
よく晴れた雲ひとつない夜空には、無数の星が輝いている。周囲の木々が人工の明かりを遮っているので、住宅街の真ん中とは思えないくらい星が明るかった。
ここで初めて彼女を見かけたときも、こんな星空だった。星が降ってきそうなほどたくさん輝いていて。でもそれ以上に俺は、夜空を見上げる百合の横顔に目も心も奪われていた。
でも今となっては、彼女に惹かれたのは俺だったのか、俺の中の誰かだったのか、分からなくなってしまった。
俺が前世の夢を見ていたと知ったときの、百合の表情を思い出す。俺が見たこともないくらい柔らかく、優しく、そして懐かしそうな、嬉しそうな顔をしていた。喜びと切なさに潤んだ瞳。
当然だ。死に別れてしまって二度と会えないと思っていた愛する人が、生まれ変わって新しい姿になって目の前に現れ、前世のことは忘れてしまっているのにそれでも自分のことを夢に見ていた。それくらい深く想っていたのだと分かった。泣きたいくらい嬉しいに決まっている。
きっと彼女は今、空を見つめながら彼のことを思い出しているに違いない。
そして俺の中にあるあきらさんの魂も、きっと今、喜びに震えているのだろう。
『生まれ変わったら一緒になろう』
『絶対に君をまた見つける』
生まれ変わったあとも夢でそんなことを言ってしまうくらい、百合のことを愛していたのだろうから。
長い時を経て、愛し合う二人がやっと再会できた。
まるでロマンチックな映画みたいだ。
でも――。
でも俺は、嬉しいとは思えなかった。自分のことのはずなのに、どうしても実感が湧かない。
前世の記憶なんて持っていない俺からしたら、自分の好きな人が他の男を心から愛し続けているとしか思えない。失恋したも同然だ。
彼女の心から嬉しそうな満ち足りた表情を見て、分かってしまった。彼女はあんな顔で、あきらさんを見ていたのだ。恋心を隠しきれないような眼差しで。
百合が好きなのは、あきらさんだ。もし俺を好きになってくれたとしても、あくまでもあきらさんの生まれ変わりとして、あきらさんへの想いを俺に見ているのだろう。
でも、俺はあきらさんじゃない。百合が好きなのは俺じゃない。
俺は瞬きも忘れて星空を凝視しながら、囁くように「ごめん」と呟いた。涙声にならないように必死で、冷たい声になってしまっているような気がした。でも、言い訳をする余裕すらない。
「……ごめん、無理だ」
百合がすうっと深く息を吸い込む音がした。
目を向けると、彼女は眉を寄せ、唇を噛んで、うん、と小さく答えた。
星のかけらみたいな涙がひとつ、彼女の頬を伝っていく。
どうして、好きな人にこんな顔をさせてしまっているんだろう。どうして、好きな人にこんな言葉を吐かなくちゃいけないんだろう。
虚しい思いに包まれながら、俺は正直な気持ちを告げる。
「俺には無理だ――」
星明かりが降り注ぐ丘で、百合の花の香りを嗅ぎながら、俺たちは声もなく涙を流した。
きっと世界の終わりは、こんなふうに虚ろで静かなんだろう。