頭が混乱している。すぐには受け入れられないような話だった。
 俺が、生まれ変わり? 百合が好きになった人の生まれ変わり?
 分からない。実感が湧かない。でも、彼女が言うことなんだから本当のことに決まっている、と思う。
 動揺したまま考えを巡らせていたとき、ふと気づいたことがあった。
 物心ついたころから繰り返し見る夢。空を飛んでいる、飛行機を操縦している、遥か下に広がる海を見ている。
 そして、百合の花に囲まれて星空を見上げる女の子。宙を舞う白い花。
「もしかして……百合の花がたくさん咲く丘で、あきらさんと会った?」
 百合が息を呑んで目を見開いた。肩のあたりで揃った髪が、潮風になびいている。でも、夢の中では。
「髪が……今よりも長くて……」
 切ったから、とほとんど声にならない震えた声で、呆然とした表情のまま彼女が答える。
「百合の花が、青空を飛ぶみたいに……」
「……出撃するとき、あきらが百合の花を私に投げてくれた」
 ああ、と息が洩れた。
「じゃあ、あの公園は……」
「……うん。あきらが連れていってくれたの、百合の花を見せるために。あのころは今よりずっとたくさん咲いてて、一面に……」
 ゆっくりと答えながら、百合は泣きそうな顔で言った。
「……思い出したの?」
 そこには期待が滲んでいた。途端に申し訳なくなって、ごめんと首を振る。
「違う、思い出したわけじゃなくて……。夢を見るんだ、昔から。何度も何度も」
「え……?」
「ああ、そうだ、星。星空も夢に出てきた。あの丘で、満天の星空って感じの」
 百合が、信じられないというように目を見開く。
「あ……あきらの出撃が決まったとき、百合の丘で話した。夜で、星がいっぱい光ってて……」
 前世の記憶というやつを夢に見ていたのかもしれない。でも、実感は湧かない。俺は俺でしかないし、自分以外の記憶はない。
 きっと彼女にとっては、それはとても酷なことだろう。彼女はきっと、俺の中にあきらさんを見ている。あきらさんがいてほしいと、記憶を取り戻してほしいと思っている。
 それが、どうしようもなくつらかった。
「……百合の姿も、何度も夢に見たよ。いつも後ろ姿だったから、確証はなかったんだけど、似てるなと思ってた」
 百合の瞳に喜びの色が浮かぶ。今にも泣きそうなほど潤んでいる。
 それを見た瞬間、空から飛んできた矢がすとんと胸に刺さったような気がした。