百合の目がまっすぐに、海の上に広がる空を見つめる。
そうか、と俺は思った。百合がいつも見ていたのは、その人ーーーあきらさんだったんだ。あきらさんが消えた空だったんだ。
俺もその空に目を向ける。自分の命を犠牲にして、国を、人々を救おうとした特攻隊員たちが消えていった空を。
しばらく黙り込んでいた彼女が、再び口を開いた。
「……私があきらと交流できたのは、出撃命令が出るまでのほんの短い間だけだったけど、それで充分だった」
なんとなく、続く言葉が予想できてしまう。聞きたくなかった。でも、聞かずにはいられなかった。
「気がついたら私は、あきらのことを――好きになってた」
予想はついていたのに、それでもやっぱり、がつんと誰かに頭を殴られたような衝撃だった。
百合に、好きな人がいた。もう会えなくなっても忘れられないくらいに好きな人が。
俺の告白を受け入れられるわけがない。きっと一方的に好意を寄せられて迷惑に思ってだろう。
何も言えなくなり、ただただ強く拳を握る。気がついたら俺は俯いて、足下の砂をじっと凝視していた。うなじに照りつける陽射しが、日に灼かれた砂が熱い。
「………ねえ、涼」
言葉にならない思いに耐えていると、ふいに百合が言った。
「初めて会ったときのこと、覚えてる?」
唐突な問いに、俺は頷く。
「覚えてるよ、もちろん。なんか、不思議な女の子だなって、すごく印象的だったから」
彼女は怪訝そうに「え? 私が?」と首を傾げた。
心に生まれた傷を無視して笑みを浮かべ、「うん、百合が」と答える。俺はたぶん、あのとき、百合に………一目惚れしていたのだ。たった今、失恋したけれど。
彼女は不思議そうに「ふうん」と言ったあと、思い出すように斜め上を見た。
「あのときね………初めて涼を見たとき、私、すごくびっくりしたんだ。だからきっと変なふうに見えて、印象に残ったんだね」
「え、びっくり? なんで?」
俺が訊き返すと、なぜか百合は、泣きそうな顔で笑った。
「…………あきらだ、って分かったから」
彼女が囁くように言う。
わけが分からなくて、「え?」と目を丸くすると、今度は確かめるようにゆっくりと言った。
「涼がーーあきらの生まれ変わりだって、私には分かったから」
「………え?」
俺はぽかんと口を開いたままの間抜けな表情で百合を見つめた。
彼女は今にも泣き出しそうな潤んだ瞳でじっと俺を射抜く。
「………涼は、あきらの生まれ変わりだよ。私には分かる。顔はあんまり似てないけど………ちょっとした仕草とか、喋り方とか、雰囲気とか………優しいとこも。いつもは控え目だけど、いざというときは強い。優しくて、強いの。似てる、すごく………」
百合は、切なげだけれど愛おしむような表情で言った。
そうか、と俺は思った。百合がいつも見ていたのは、その人ーーーあきらさんだったんだ。あきらさんが消えた空だったんだ。
俺もその空に目を向ける。自分の命を犠牲にして、国を、人々を救おうとした特攻隊員たちが消えていった空を。
しばらく黙り込んでいた彼女が、再び口を開いた。
「……私があきらと交流できたのは、出撃命令が出るまでのほんの短い間だけだったけど、それで充分だった」
なんとなく、続く言葉が予想できてしまう。聞きたくなかった。でも、聞かずにはいられなかった。
「気がついたら私は、あきらのことを――好きになってた」
予想はついていたのに、それでもやっぱり、がつんと誰かに頭を殴られたような衝撃だった。
百合に、好きな人がいた。もう会えなくなっても忘れられないくらいに好きな人が。
俺の告白を受け入れられるわけがない。きっと一方的に好意を寄せられて迷惑に思ってだろう。
何も言えなくなり、ただただ強く拳を握る。気がついたら俺は俯いて、足下の砂をじっと凝視していた。うなじに照りつける陽射しが、日に灼かれた砂が熱い。
「………ねえ、涼」
言葉にならない思いに耐えていると、ふいに百合が言った。
「初めて会ったときのこと、覚えてる?」
唐突な問いに、俺は頷く。
「覚えてるよ、もちろん。なんか、不思議な女の子だなって、すごく印象的だったから」
彼女は怪訝そうに「え? 私が?」と首を傾げた。
心に生まれた傷を無視して笑みを浮かべ、「うん、百合が」と答える。俺はたぶん、あのとき、百合に………一目惚れしていたのだ。たった今、失恋したけれど。
彼女は不思議そうに「ふうん」と言ったあと、思い出すように斜め上を見た。
「あのときね………初めて涼を見たとき、私、すごくびっくりしたんだ。だからきっと変なふうに見えて、印象に残ったんだね」
「え、びっくり? なんで?」
俺が訊き返すと、なぜか百合は、泣きそうな顔で笑った。
「…………あきらだ、って分かったから」
彼女が囁くように言う。
わけが分からなくて、「え?」と目を丸くすると、今度は確かめるようにゆっくりと言った。
「涼がーーあきらの生まれ変わりだって、私には分かったから」
「………え?」
俺はぽかんと口を開いたままの間抜けな表情で百合を見つめた。
彼女は今にも泣き出しそうな潤んだ瞳でじっと俺を射抜く。
「………涼は、あきらの生まれ変わりだよ。私には分かる。顔はあんまり似てないけど………ちょっとした仕草とか、喋り方とか、雰囲気とか………優しいとこも。いつもは控え目だけど、いざというときは強い。優しくて、強いの。似てる、すごく………」
百合は、切なげだけれど愛おしむような表情で言った。