「もう一人は、私を一番最初に見つけて、助けてくれた人……。その人は、特攻隊員だった」
 俺は驚きに目を瞠る。
 そして、すぐに理解した。どうして百合があんなに特攻隊について詳しかったのか。そして、どうしてあそこまで思い入れていたのか。本物の特攻隊員を知っていたからなのだ。
「あきらっていう名前だったの。そのとき、二十歳の大学生で……すごく、すごく優しい人だった」
 彼女はゆったりと目を細めて、その名前を口にした。とても優しい表情だ。
 もしかして、という予感で、胸がきりきりと痛み始める。
「いつも私のことを気にかけてくれて、優しくしてくれた。空襲に遭って危なかったときも、あきらが助けに来てくれたの。……あきらがいなかったら、きっと私は向こうの世界で死んじゃってたと思う」
 でも、と続けた百合の顔が、苦しげに歪んだ。
「……私が出会ったときにはもう、特攻で死ぬことが決まってた。ある日突然、明後日出撃することになったって言いに来て……。行かないで、あきらが死ぬことないって必死で止めた。だって私は、日本は負けるって知ってたから。なんとかして生き延びてほしくて、何度も何度も説得しようとした」
 もしも俺が百合の立場だったとしてと、同じことをしただろう。俺たちは、彼らの未来を知っている。命を犠牲にしても結局は敗戦国になってしまうのだと知った上で特攻隊の人たちと関わった百合は、想像を絶する苦しみを味わっただろう。
 どうして彼女がそんなつらい目に遭わなくてはいけなかったのか。
「でも、何を言っても私の気持ちは伝わらなかった。特攻隊員の人たちはね、自分が特攻することで日本を救うんだって、悲しいくらい切実に考えてたの。あきらも同じだった。自分の大切な人たち、日本の未来を守るために行くんだって言って………本当に行っちゃったの」
 そのときのことを思い出したのか、百合の目がじわりと潤んだ。
 俺はどんな言葉をかければいいか分からなくて、ただ見つめることしかできない。
「出撃の日………私は飛行場まで見送りに行った。あきらは古びた戦闘機に乗って、飛び立って………空の彼方に消えていった」
 無駄死にになると知っていながら、出撃する人を黙って見送るしかない気持ち。悲しいとか切ないとか、そんな簡単な言葉では言い表せないものだっただろうと思う。