「――やべー、もう……」
 俯いた顔を両手で覆い、俺は絞り出すように呟いた。だらりと背もたれに身体を預ける。
 百合が、よく聞こえない、というように、「え?」と首を傾げるのが気配で分かった。
 俺は指の隙間から百合を見る。
 そして、気がついたら、こう言っていた。
「めちゃくちゃ好き……」
「……え?」
「もう、すげー好きだ……」
 まんまるの目が俺を見ている。
 しばらくそうしていて、俺の言葉の意味が急に腑に落ちたのか、百合は息を呑んだ。
 色白の頬が、みるみる紅く染まっていく。
 いつも落ち着いている彼女がこんな顔をするのは初めてで、俺のほうまでどきどきしてきた。
 でも、その表情がだんだんと色を変えていくことに気づき、今度は俺が息を呑む。目が細くなって、眉が下がって、口許が歪んでいく。今にも泣き出しそうな顔に見えた。
 頭が真っ白になる。なんと言えばいいのか分からなくなってしまった。
 俺たちは無言のまま電車に揺られる。
 なんとなく、百合も自分と同じような気持ちでいてくれているんじゃないか、と思っていた。もちろん大きさや強さは全く違うだろうけれど、彼女も俺に対して少しは特別な感情を抱いてくれているんじゃないか、と。名前で呼ぶのを許してくれて、ラインでやりとりをしてくれて、こうやって二人で出かけることを受け入れてくれたのは、そういうことなのだろうと想像していた。
 だから昨日、彼女と海の話になったときに、海で告白しようと思いついて、一緒に行こうと誘ったのだ。
 もしかして、全て俺の勘違いだったのだろうか。自分に都合のいい勝手な思い込みだったのだろうか。
 さっき顔を赤くしていたのは、ただただ俺の告白に驚いて、そして困っていたのだろうか。
 気まずさに吐きそうな気持ちに堪えきれなくなって、向かいのガラスに映る顔を盗み見る。
 百合は、今まさに告白された人とは思えないぼんやりとした表情で、揺れる吊り革のあたりか、窓の外の空を見ているようだった。
 終わった。これは、終わった。告白は失敗したのだ。返事を聞くまでもない。
 魂が抜けたように呆然としていると、いつの間にか目的の駅に近づいていた。見慣れた地名が目に飛び込んできて、少し力が戻ってくる。
 せっかく百合に海を見せるために来たのに、俺がこんなふうじゃ、彼女が楽しめない。テンションを上げないと。
 俺は意識して笑顔を浮かべ、隣に目を向ける。明るい声を心がけて、
「着いたよ。降りよう」
「あ、うん」
 俺が立ち上がると、百合も鞄を持って腰を上げた。