「………だから、私たちは――平和な国に、平和な時代に生まれることができた私たちは、どうせ無理だからとか、しょうがないとか、言っちゃだめなんだよ。全てを諦めるしかなかったあの人たちの代わりに、私たちは何ひとつ、諦めたりしちゃだめなんだよ………」
 そこまで言い終えると、百合は小さく息を吐き出した。
 呼吸さえ忘れて、それくらい必死に、俺に伝えようとしてくれたのだ。
 痛いくらいまっすぐな言葉。きっと言う側だって痛い。だから俺も、たとえどんなに痛くても、まっすぐに受け取らないと。
「………涼。だめだよ、諦めちゃ。納得してもらえるまで何度だって、自分の気持ち伝えればいいんだよ。ただ自分の気持ちを押しつけるんじゃなくて、どうやったら伝わるか、納得してもらえるか、一生懸命考えて話すの。涼が頑張ってることは、きっと、お父さんとお母さんが一番分かってくれてる。だから、いつかきっと、分かってもらえるよ………」
 俺は唇を引き結び、何度も頷いた。
「そうだよな。こんなことで諦めるなんて、バカだよな………」
 百合の言葉を聞いているうちに、まとっていた鎧がひとつずつ剥がれていって、裸の自分が出てきたような気がした。自分の本当の希望、譲れない夢。
 分かってほしいと言いながらも、少し否定されただけで心が折れてしまって、説明するのも理解してもらうのも面倒くさくなり、自分で目隠ししてしまっていたもの。
「……俺、なに考えてたんだろう。こんなにサッカーが好きなのに、なんで簡単に諦めたりしたんだろう。今日、うち帰ったら、もう一回話すよ。サッカーが終わったら、ちゃんと自分で勉強するからって言えば、分かってもらえるよな。分かってもらえなかったら、ちゃんと結果出して見せつければいいんだもんな」
 百合はいつも俺に勇気をくれる。
 きっと今までだったら、なんの反論もせずにすぐに諦めて、親の言う通りにしていたと思う。『親の言うことだから仕方ない』と。
 転校のときもそうだった。本当は夏休み中は向こうにいたかったのに、俺は何も言わずに受け入れた。父さんと母さんの言うことには逆らえない、逆らっても無駄だと。
 でも、たとえ希望は通らずに終わるとしても、せめて一度は勇気を出して、自分の気持ちを主張すればよかったのだ。初めから諦めてただただ我慢するなんて、本当に俺って情けない、と自分に呆れる。
 まあでも、転校のことは結果オーライだったと今は思う。だって、百合に出会えたから。一日でも早く出会えたから。
 そうして出会った彼女が、俺を変えてくれた。百合の凛とした強さとまっすぐさが、変わらなきゃと俺に思わせてくれた。一歩踏み出す勇気をくれた。