二人で図書館に行ったあの日、別れ際に俺たちはラインのアドレスを交換した。
 調べ学習のことで話を進めやすいように、という目的ではあったけれど、百合とつながれたことが本当に嬉しかった。
 翌朝、まるでサッカーの試合でPKを蹴るような気持ちで自分を奮い立たせて、〈昨日はお疲れ様でした〉という妙に畏まった文章を、緊張に震える指で送った。
 だから彼女から〈お疲れ様、楽しかった〉と返ってきたときは、思わず、よっしゃ、と小さく叫んだ。ガッツポーズまでしてしまった。
 百合は、まっすぐで嘘をつかない人だ。きっと、本当に「楽しかった」と思ってくれたのだ。
〈俺もめっちゃ楽しかった。ありがとう〉
 それから俺たちは、ときどきメッセージを送り合うようになった。
 とはいえ、俺はあまり小まめなやりとりが得意なほうではないし、彼女も普通の女子のように何でもないことでメッセージを送ったりするタイプではないので、話題は調べ学習のことばかりだった。
 でも、その中に少しずつ、世間話のようなものが添えられるようになっていった。
〈部活お疲れ様〉
〈今日も暑かったね〉
〈宿題どう?〉
〈全然進まない〉
〈私も。現実逃避して早めに晩ご飯食べちゃった〉
〈晩ご飯はなんだった?〉
〈カレーだよ〉
〈うちも!〉
 なんということもないやりとりだけれど、それでもすごく嬉しくて、照れくさくて、やっぱり嬉しくて、百合からメッセージが届くたびににやにやしてしまう。
 面と向かって呼び捨てにするのは恥ずかしくて難しかったけれど、文字で送るなら少しはハードルが下がった。そのうち、百合と呼ぶのも、涼と呼ばれるのも、悶えなくてすむくらいに馴染んできた。
 少しずつ、でも確かに縮まっていく距離を、俺は感じていた。