滑らかな白い花びらと、鮮やかな黄色の花粉をぼんやり見つめていると、ふいに「宮原くん?」と窺うような声が聞こえてきた。はっと我に返る。
 ごめん、と隣に目を向けると、加納さんがじっとこちらを見ていた。今にも吸い込まれてしまいそうな澄んだ瞳。
「……何か、思い出した?」
 そっと訊ねられて、俺は「あっ」と立ち上がる。
「あっ、そうだよな、まだ話し合いの途中だったよな。ごめん、脱線しちゃって。戻って続きやろう」
 慌ててテーブルのところに戻ろうとするも、彼女はしゃがんだまま俺を見上げている。その顔が、なぜか泣きそうに見えて、俺はどきりとした。
「……どうかした?」
 もう一度腰を落として訊ねる。彼女はふっと微笑んで、首を横に振った。
「……ううん、なんでもない。大丈夫」
 そう言ってさっと立ち上がる。そのまま元の場所に向かってゆっくり歩き出したので、俺は不思議に思いつつも後を追った。
 

 再び戦争の資料に向かい合う。
 少し緩んでいた気持ちが、ページをめくるうちに、ぎゅっと引き締められたような気分になった。
 本にはたくさんの写真が載っていて、空襲で焼死した人の遺体や、戦死した兵士の笑顔を見るたびに、言葉にならない息苦しい感情に包まれる。
 加納さんはどこかぼんやりとしたまま特攻機の写真を見つめていて、それからふと、思いもよらないことを呟いた。
「……生まれ変わりって、信じる?」
 俺は目を上げて彼女の顔を見つめる。ふいに思いついた雑談という様子でもなく、ひどく真剣な目をしていた。
 俺は少し考えてから、「分からない」と正直に答えた。それから本のページに目を落とす。
 なんの罪もないのに突然空襲を受けて炎に焼かれ、幼い命を奪われた子ども。きっとたくさんのやり残したことがあっただろうに、お国のためにと自らの命を犠牲にして死んでいった若い特攻隊員。
「分からないけど……たとえば、この人たちが……戦争で亡くなった人たちの魂が、今の平和な日本に生まれ変わって、安全に幸せに暮らしてたらいいな……と思う」
 それはもしかしたら、生き残った人たちの心を救うための夢物語なのかもしれないけれど。それでも、生まれ変わりというものが本当にあって、現世で悲しい死に方をした人が来世では幸せになるという考えは、たとえ根拠のない迷信だとしても、救いになるものだと思えた。そうでも考えないと、あまりの不条理さと悲しさで、どうやって自分の心に折り合いをつければいいか分からなくなってしまう。
「……そうだね」
 加納さんは静かに言った。また、泣きそうな顔をしている。