しばらくして、彼女は「あ」と我に返ったようにこちらを見た。
「ごめん、ぼうっとしてた。ご飯冷めちゃうね。食べよっか」
「あ、うん、全然いいんだけど。……食べよっか」
 気のきいたことが全く言えない自分に呆れつつ頷く。
 加納さんは小さな口を大きく開けて、思いきりハンバーガーにかぶりついた。いい食べっぷりだな、と思わず笑うと、彼女が少し恥ずかしそうな顔をした。
「ごめん、品がなくて……」
 まさかそんなふうにとられるとは思っていなかったので、驚いて首を横に振る。
「全然そんなことないよ! むしろ美味しそうに食べる女の子ってすごく可愛いと思う」
 自分でも引くほどの勢いで、引くほど恥ずかしいことを言ってしまった。一気に顔が熱くなる。俺は慌ててコーラを飲み、なんとか熱を下げようとしたものの、無駄な足掻きだった。
 加納さんは一瞬目を丸くして、それからおかしそうに声を上げて笑い、「ありがとう」と呟く。
 俺はやけになってハンバーガーをばくばく食べた。変な食べ方と思われていないか心配だった。
 女の子と二人でご飯を食べるというのはこんなに照れくさいことなのだと、生まれて初めて知った。給食とは全然違う。いや、相手が加納さんだからなのか。
 彼女が食べる姿を直視するのが恥ずかしくて、でも気になって見てしまう。そして自分が見苦しい食べ方をしていないか気になって仕方がない。
 ほとんど味も分からないまま食事を終えて、混雑した店内から押し出されるように外へ出た。