そんなことを考えながら、俺は彼女と並んで歩き、ファストフード店の入り口をくぐった。
「そういえば、加納さん、戦争のことに詳しいんだね」
 レジで注文したハンバーガーとポテトを持って空いたテーブルを探しながら、俺は何気なくそう訊ねた。日曜の昼時なので、ほとんどの席が埋まっている。
「あ……うん、そうかな、そうかも」
 後ろを歩く加納さんが小さく答える。
「もしかして、ひいおじいさんとかおじいさんとかがけっこう戦争の話とかしてくれる? 小学校の調べ学習のとき俺もひいばあちゃんに訊いてみたんだけど、あのころのことは思い出したくないって、あんまり話してくれなかったんだ。ばあちゃんは戦争のころは子どもだったからあんまり覚えてないらしいし。……あ、あそこ空いてる」
 道路に面した窓際に空席を見つけて振り向いた俺は、そこに予想もしなかった表情を見つけて、驚きに言葉を呑み込んだ。
 加納さんは、今にも泣きそうな顔で微笑んでいた。
「え……っ、どうしたの、大丈夫?」
「あっ、うん」
 彼女ははっとしたように目を丸くして、それから「大丈夫、大丈夫」と小首を傾げて笑った。
「うちはおじいちゃんもおばあちゃんも近くにいないし、ひいおばあちゃんももう亡くなってるから、戦争の話は聞いたことないんだけどね」
 なぜあんな顔をしていたのか気にかかっていたけれど、彼女が普通に話し始めたので、俺も普通に「そうなんだ」と相づちを打つしかない。
 二人席に向かい合って座ると、思いのほか距離が近くて、彼女を直視できない。俺はハンバーガーの包み紙を開くのに手間取っているように装って、手もとに目を落としながら続ける。
「加納さん、すごくリアルな感じで話してくれたから、てっきりおじいさんたちから聞いたことなのかと思った」
「ああ、うん……身内ではないんだけど、なんていうか、知り合いの人がいて……それでちょっと、みんなよりは、戦時中のことに詳しいかも」
 その人が戦争について語ってくれたということだろうか。
 さっきの彼女の話はまるで見てきたかのように、まさに迫真という感じがしたので、その知り合いの人の生きた経験を何度も何度も聞いているのだろうと思った。
 彼女はそれきり何かを考え込むように口を閉ざしてしまったので、俺もつられたように押し黙った。
 きれいな横顔を窓の外の人混みに向けて、薄い唇を軽く噛むような表情。一体何を考えているのだろう。