「………ご、ごめん」
掠れた声で謝ると、加納さんはふるふると首を横に振った。
「べつに、謝ることない」
それから、おかしそうに微笑む。
「………こんなとこで、いきなり泣いたりしないよ。泣きそうに見えた?」
「うん………ちょっと」
「大丈夫。ありがと」
彼女はにこりと笑って、開いた本のページを俺のほうに見せる。
「この本ね、特攻隊が始まるまでの経緯とか、すごく分かりやすく書いてあった。これまとめるといいかも」
その言葉を聞いて、俺たちは特攻隊について調べて発表するために図書館に来ていたのだ、と思い出した。
彼女から受け取った本を、1ページ目から見ていく。確かに、俺にでも理解できる分かりやすい文章で書いてあった。
彼女はその間に他の本を手に取り、ノートに書き写したりしている。俺も大事そうなことをいくつか簡単にまとめた。
学習コーナーには、俺たちの他には、近所の高校の制服を着た男子高生三人組と、大学生らしい女の人一人しかいない。
すごく静かだ。ページをめくる音と、シャーペンの芯が紙に触れる音だけが聞こえる。
何気なく目を上げると、思いがけないほど近くに加納さんの顔があった。窓から射し込む光に白く照らされている。長くて真っ直ぐな睫毛が伏せられて、頬にくっきりと影を落としていた。
彼女は集中した様子でノートにペンを走らせている。
見惚れてるヒマなんかない、と気を引き締めた。俺も頑張らなきゃ。加納さんに幻滅されたくない。
一冊目をざっと読み終え、大事なポイントはだいたいまとめ終えたので、俺は次の本に手を伸ばす。
何気なく手に取ったのは、社会科見学の行き先だったという特攻資料館が発行しているものだった。表紙をめくってみる。
「……あ」
出撃前の特攻隊員たちが、みな同じ飛行服に身を包んで、カメラに向かって微笑む写真が並んでいる。
一枚目の写真は、花の枝を持って明るい笑顔を弾けさせている、若い隊員だった。写真の下に、名前と年齢も載っている。
それを見た瞬間に、俺は言葉にならない衝撃を受けた。
「十七歳……」
うそだろ、と思う。十七歳ということは、高校二年生だ。
俺は思わず顔を上げ、向こうのテーブルに座っている三人組の男子高生を見た。
顔を寄せ合ってぼそぼそ喋りながら、一人が手に持つスマホの画面を覗きこんでいる。ゲームか何かをしているように見えた。ときどき、噴き出すような仕草をして、小さな声で笑い合っている。
十七歳。たぶんあの人たちと同じくらいだ。特攻隊には、あんなに若い人もなっていたのだ。その事実が激しく胸を打った。
俺たちも三年経ったら十七歳になる。三年後の俺は、国のために自ら死ぬことができるだろうか。無理に決まっている。
でも、そんな驚きはほんの序の口だった。
ページをめくるたびに現れるのは、どれも若い顔ばかり。ほとんどが二十歳前後だったのだ。
今で言えば、成人式を迎える年、たしか大学二年生。就活さえ始まっていない。人生これから、というか、まだ何も決まっていないと言ってもいいくらいの年齢。