てことは、と気がついてしまう。今日は、加納さんと二人きり? うわ、マジで? どうしよう……。
 丘の上の公園では、ほんの三十分ほど並んで話しただけだった。学校で話すときもせいぜい五分か十分くらい。でも今日は、調べものをするのだから何時間も一緒にいることになる。俺の心臓、耐えられるかな。
 加納さんがスマホをしまって俺を見た。
「じゃ、行こっか」
 さらりと言って、平然と歩き出す。さすがだ。
 いや、というか、俺、まったく意識されてないってことか………。
 彼女は迷いのない足取りで、すたすたと人波の間をすり抜けていく。俺も後を追った。
 目的地は、市立図書館。そこで、戦争や特攻についての資料を探して、必要な情報をまとめ、発表用のプリントを作るのだ。
 図書館に入り、館内案内図を確認して、歴史関係の本が並べられている書架へと向かった。
「この本と、こっちと………あ、その本もけっこういいよ」
特攻隊に関連する本を探していると、彼女がやけに詳しいのに気がついた。
「加納さん、詳しいね。調べたことあるの?」
俺がそう訊ねると、彼女はこくりと頷いた。
「資料館行ったあと、もっと色々知りたいなって思って……」
「へえ……すごいな」
我ながら間抜けな返答だけれど、それくらいしか言えなかった。
中学生で、自分から戦争について調べようと思うなんて。加納さんは本当に、普通の子とは全然ちがう。
「俺さ、特攻隊ってよく知らないんだ。前の学校でちょっと習ったけど、ちょうどテスト前で急いで終わらせた感じだったから、あんまり説明とかなくて。よかったら、基本的なことだけでも教えてくれない?」
十冊ほどの本を持って学習コーナーに行き、隅っこの大きな机を陣取ったところで、俺は加納さんにそう言った。彼女は「うん」と頷き、一冊の本をゆっくりと開きながら、静かに語り出した。
「太平洋戦争、第二次世界大戦ってね、日本は最初のほうは連勝してたんだって。ロシアみたいな大国に勝ったり、アメリカ軍を壊滅させたり。だから国民はみんな、日本の強さと勝利を確信してて、神風が吹く国だから敗けるはずがないって思ってたんだって」
「そうなんだ……全然知らなかった」
授業やテレビから知った内容では、日本は貧困と飢餓に苦しみながらたくさんの犠牲者を出した敗戦国、というイメージだった。
「でも、勝てたのは、他の国が日本を甘く見てた最初のころだけで……だんだん日本は敗けが続くようになって、戦況は悪くなる一方だった。それでも新聞やラジオでは、まるで日本が勝ち続けてるように報じてた。だから国民は、まだ日本の勝利を信じ続けてて、貧しくて飢えに苦しむ悲惨な生活にも耐えてた。自分たちの食べ物を削ってでも、戦ってくれてる軍人たちを応援して」
加納さんはふと窓の外に目を向け、眩しそうに目を細める。
その視線の先では、幼稚園くらいの子供たちが公園の水場で無邪気に遊んでいた。
なんてのどかなんだろう、と俺は思う。今彼女が話してくれていることと平和だ、と実感した。