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夏休みになって二回目の日曜日。
今日は、社会科見学の事後学習のことで調べ物係が集まることになっていた。
せっかくの日曜なのに、とぼやいているやつもいたけど、俺はむしろ楽しみにしていた。
加納さんに会えるからだ。
「宮原くん」
涼やかな声が聞こえて振り向くと、思ったとおり彼女だった。待ち合わせ場所の駅の改札口に立っていた俺を見つけて、声をかけてくれたのだ。
「おはよ、加納さん」
「おはよう。早いね」
「あー、うん、思ったより早く着いちゃった」
「そっか」
加納さんは頷いて俺の隣に立った。
その姿を、俺はこっそり横目で見る。当たり前だけど、私服だ。そんなことに、やけにどきどきしてしまう。
ずいぶんとシックな服装だ。中学生の女の子がよく着ているような、カラフルな柄ものと短いスカートやショートパンツなどではなく、小さな黒文字が控え目にプリントされた白いTシャツに、濃いグレーのスキニージーンズ。
どちらかというと地味な格好なのに、彼女の落ち着いた雰囲気にはよく似合っていた。
「みんな、遅いね」
彼女がふいに口を開いたので、俺は我に返った。
「あー、だよな、もう時間なのに」
俺はスマホを取り出して確かめてみる。すると孝一からラインが入っていた。
『ごめん、今日行けなくなったわ』
マジかー、と俺は項垂れる。気づかなかったけれど、三十分以上前に入っていた連絡だった。
理由は書かれていないから分からないけれど、急用か、もしかしたらサボりか。孝一は面倒くさがりなところがあるようだから、調べ物なんて苦手だと思う。実際、今日の集まりを決めたときも「めんどくさい」とか「それぞれネットで調べてくっつければいいんじゃね?」と何とか回避しようとしていたのだ。
加納さんにラインの画面を見せると、
「そっか、しょうがないね。まあ、三人でも別に問題ないよね?」
「まあね。にしても有川さんも遅いね、連絡とか来てない?」
何気なく訊ねると、加納さんは少し困ったような顔をした。
「………ごめん、有川さんの連絡先、知らない」
申し訳なさそうに言われて、俺のほうがもっと申し訳なくなる。
そっか、加納さんて、少し他の女子たちとは違うから。ラインでこまめに連絡とったりとかしなさそうだもんな。
「あ、でも、橋口さんのなら知ってるから、訊いてみようかな」
そう言ったとき、着信音が鳴った。彼女のスマホだ。
「橋口さんから………」
小さく呟いて、画面を俺のほうに向けてきた。
「えっ、有川さんも来れないの?」
「法事だって………」
「そっか、しょうがないよな」
「うん」
彼女はあまり慣れないような手つきで画面をタップし、橋口さんに返事をしたようだった。