「……ここ、座っていい?」
 彼女の隣のベンチを指差すと、「もちろん」と返ってきた。
「ありがとう」と腰を下ろしたベンチの周りにも、少し百合が咲いている。真っ白で、凛とした佇まいの、上品な花だ。葉にも花びらにも流れるような筋が入っていて、まっすぐだな、と思う。
 加納さんみたいだ、と思ってから、女の子を花にたとえる自分のロマンチストぶりに耳が熱くなった。
 俺はこんなキャラではなかったはずだ。でも、彼女に出会ってから、新しい自分を毎日のように発見しているような気持ちになる。
 隣に座ったはいいものの、特に話題も思いつかなくて、ただ隣に座っているだけの変なやつになってしまう。
 何か会話の糸口になりそうな適当なネタはないかと必死に考えを巡らせていると、
「……今朝の私、感じ悪かったよね」
 ふいに加納さんが呟いた。俺は驚いて隣を見る。
「えっ? 全くそんなこと思わないけど……」
「……そうかな?」
 彼女は不安そうな顔をしていた。
「私、気が短くて怒りっぽくて口が悪いから……。何もあんな言い方しなくてもよかったなって今になって思うし、花瓶も割っちゃったし、きっとクラスのみんなを怖がらせて嫌な思いさせちゃったなーって、すごく自己嫌悪で……」
 はあっと深く息を吐いて両手で顔を覆う彼女に、俺は目を丸くした。しばらく唖然として、それから思わず笑ってしまった。彼女が怪訝そうな顔でこちらを見る。
「あ、ごめん、意外で」
 俺は慌てて口に手を当て、笑いを噛み殺しながら言った。
「意外?」
 彼女の顔がさらに訝しげになる。
「いや、加納さんってすごく大人っぽくて、なんか達観してるというか、悟り開いてるみたいな感じがするから、そんなふうに悩んだり後悔したりするんだーって驚いちゃって」
「ええ、何それ」
 俺の答えに、彼女はおかしそうに笑った。大きな目が細くなり、眉と目尻が下がって、頬がふっくらと膨らむ。
 加納さんのこんな屈託のない笑顔を見たのは初めてだった。やばい、可愛い。
「全然そんなことないよ。私ほんとに自分勝手だし、子どもだし、達観も悟りも全然。もっと落ち着いた大人に早くなりたい」
「えー? 加納さんが子どもだったら、俺なんて赤ちゃんだよ」
「うそ。宮原くんこそ大人っぽいじゃん。他の男子と全然違うなって思ってたよ」
「ええっ!? いや、ないない、俺マジでガキだから!」
 顔の前でぶんぶん手を振って否定しつつ、加納さんの話し方が少しくだけて、表情も柔らかくなってきたのを、内心ものすごく嬉しく思っていた。なんだか距離が縮まったような気がする。
 彼女とこんなふうに話せるなんて、まるで奇跡が起こったみたいだ。