部活が終わったあと、またあの公園に行ってみた。
この前加納さんと初めて丘の上で会ったとき以来、なんとなく気まずくて、もしまた会えたとしてもうまく話せない気がして、足が遠のいていたけれど、今日はどうしても行きたくなった。
会える確証なんてなかったけれど、この前彼女が座っていたベンチに向かう。
あのときと同じように空を見上げている後ろ姿を見つけた瞬間、心臓がばくばくと暴れ始めた。引き返したくなったけれど、勇気を振り絞って「加納さん」と声をかける。
「あ、宮原くん」
「ごめん、急に話しかけて……」
 加納さんは小さく首を振った。
「あの……大丈夫?」
 訊ねると、彼女は「え、何が?」と首を傾げた。
「あっ、いや、何もないならいいんだけど」
 朝の花瓶事件のあと、彼女はどこか元気がないように見えた。だから心配だったのだと言おうと思ったけれど、余計なお世話と思われるかもしれないと考えて、言葉を濁す。
「今日もサッカーの練習?」
 彼女の問いかけに、俺は「いや」と曖昧に答える。今日はサッカーではなくて加納さんに会いたくて来たのだと、そんなことを言う勇気は俺にはなかった。
「……加納さんはいつもここに来てるの?」
 質問返しのようになってしまった。
 彼女は「ううん」と首を横に振る。
「いつもってわけじゃないよ。たまに……嫌なことがあったときとか、考え事したいときとか。ここ、静かだから、なんか落ち着くの」
「ああ……なんとなく分かる」
 学校では人に囲まれていて、家に帰っても家族がいる。部屋にいたって常に人の気配があるし、外から車の音や人の声が聞こえてくる。
 誰にも邪魔をされず一人で静かに考え事をすることができる場所は、意外と少ない。その点、夜の公園はひと気がないからいい。住宅街にある公園だと周りを車や人が行き来するから落ち着けないけれど、ここは深い緑に囲まれているから、一人になりたいときは最適だと思った。
 加納さんの嫌なことってなんだろう。考え事ってなんだろう。
 純粋な疑問が浮かんだけれど、訊ねることはできない。人の心に土足でずかずか踏み込むような人間だと、彼女には思われたくなかった。
 加納さんは「だよね」と小さく言って、足下の百合の花に視線を移した。髪で顔が隠れて、どんな表情をしているのかは見えない。でも、ぴくりとも動かずに花を見つめる姿を見ていると、このまま帰る気になんてなれなくて、図々しいのは承知でどきどきしながら訊ねた。