帰り道、下り坂を自転車で疾走していると、このまま飛び立てそうな錯覚に陥った。
　それくらいふわふわした気持ちだった。偶然訪れた公園で加納さんに出会えたこと。そしてたくさん会話ができたこと。彼女が微笑んでくれたこと。
　家に着くと、母さんが食事を用意しながら「遅かったわね」と少し不機嫌な顔で言ってきたけれど、全く気にならなかった。
　幸せな夢から抜け出せないような気持ちで飯をかき込み、超特急で風呂に入って自分の部屋に戻ってもまだ気持ちが高揚していて、宿題も手につかないくらいだった。
　そして夜、またあの不思議な夢を見た。
　星明かりにほのかに照らされた百合の花が無数に咲いている丘の上で、座り込んで空を見上げている女の子の後ろ姿。
　いつもの夢なら女の子はずっとこちらに背を向けているのに、驚いたことに今日は、ゆっくりとこちらを振り向いた。
　女の子は、加納さんの顔をしていた。
　自分の欲望がそのまま現れたみたいな夢で、目が覚めたとき死ぬほど恥ずかしくなって、タオルケットを頭からかぶってばたばた暴れてしまった。
　次の日からはなんとなく気まずくて加納さんの顔を直視できなくなってしまい、グループ活動のときも彼女に目を向けられなくて他の人ばかり見ていた。たぶん彼女は気づいてすらいないと思うけれど。