「ええと、加納さん、よろしく………」
「………うん。よろしくね」
なんと俺は、加納さんと一緒に図書館で調べ物をする係になったのだ。
もちろん、二人でというわけではない。孝一と有川さんも一緒に、四人で。
思いがけない、でも本当は心の底で少しだけ期待していた展開に、俺はどうしていいか分からない。
だから彼女から目を逸らして、みんなに対して訊ねた。
「そういえばさ、社会科見学ってどこ行ったの? 俺、何も知らないんだ」
 祐輔が「あー、そういえばそっか」と頷く。それから聡太を見て、
「たしか、なんとか資料館だったよな」
と言った。俺はぷっと吹き出して、
「なんだよー、その『なんとか』の部分が知りたいんだって」
「だよなー。でも忘れたよ、もう」
「先々週? だもんなー」
「なんか、戦争っぽいとこだった」
「そうそう、戦闘機とか写真とか飾ってあったよな」
二週間も経っていないはずなのに、みんなどこに行ったかも覚えていないようだ。
まあ、中学生にとっての社会科見学なんて、そんなものか。みんな、友達と一緒にバスで出かけたり、バスの中でお菓子を食べたり、ピクニックのようにして弁当を食べたりする楽しみのほうがメインで、どこに行って何を見たかなんて、正直、どうでもいいことなのだ。
女子たちも顔を見合わせて、「なんてとこだったっけ?」なんて言い合っている。
そんな中で、ひとり静かな視線でみんなを見つめていた加納さんが、ふいに口を開いた。
「ーーー特攻資料館」
静かな声。まるで、彼女だけ違う空間にいるみたいだ。
「特攻隊として体当たりして亡くなった人たちの、遺書とか遺品とかが展示されてる資料館」
彼女は、誰を見るともなくどこか焦点の合わないような目つきで、ゆっくりと言った。
俺の質問に答えてくれたというのに、なぜか俺のほうさえ見てくれない。
そのことが気になって加納さんをじっと見つめていたからだろうか。俺は気づいてしまった。
彼女の目に、うっすらと涙が滲んでいることに。
潤んだ瞳は、窓から射し込む陽光で、白く煌めいている。
きれいだな、と思った。
『加納さん、大丈夫? どうかした?』
 そう言えれば、どんなにか良いだろう。でも、俺は何も言えないままただ口をつぐんでいた。
見てはいけないものを見てしまったかのような気まずさを隠すために、視線を逸らす。
加納さんの言葉に目を丸くしていた男子たちが、一拍置いて、少し温度の下がった雰囲気を変えるように明るく言った。
「そうだそうだ、特攻資料館だ」
「あーそうだった、思い出した」
「入り口に古い戦闘機みたいなの置いてあってさ」
「遺書みたいなのいっぱい飾ってあんの」
「隊員みんなの顔写真が、壁一面に並べてあったんだぜ!」
資料館の様子を俺に伝えようとしてくれる言葉を聞きながらも、俺は、加納さんのことで頭がいっぱいだった。
どうして彼女は、あんなに悲しそうな顔をしているんだろう。