ともあれ、そうして完成した北斎の第一作はSNS上でメチャメチャ評判になっていた。[からすみうるて]はそこそこ名の売れた中堅作家なので、1000件以上のリツートは珍しくない。けど、ここまでバズるのは年に1、2回あるかないかだ。

・エロいけど背景の文章でわらう
・テキストお腹いたい…
・からすみさん作風変わりすぎw
・竿役が無駄にカッコいい
・竿役のセリフ、〇〇(大御所男性声優)で再生された
・かわいいけど……かわいいんだけど……!!!
・文章で草
・テキスト笑うけどじっくり読んでると勃ってくるから困る
・えっちなのに笑える不思議な一枚
・過疎ジャンルの水滸伝に期待の新星現る!!
・このノリ流行れ

 全体的に女の子の可愛らしさやエロさを褒めてはいるけど、それと同じくらいテキストと竿役に関する反応も多い。テキストは北斎が書いたものを、藍佳がテキストツールで打ち直したから、内容はよく知っている。エロシーンのセリフや状況説明、それに擬音なのだが、ワードセンスが特異すぎるのだ。
 「アレアレおよしヨ」だの「ズブリズブリと」とか「チュパチュパ」「ハアハア いい いい」といった具合で悪ふざけにも程がある。なのに全部読んでいくと悶々としてくるから始末が悪い。
 そして竿役は……とにかくいかつい。筋骨隆々の虎ひげの大男が、ぎょろりと眼を輝かせ、歌舞伎の見得のような派手なポーズで美少女を陵辱している。
  男性の絵はまだ浮世絵の色合いが強いようで、それが濡れ場の妙な迫力を作り上げていた。藍佳が打ち込んだテキストによれば「陸謙」というキャラクターらしい。これは陸謙が上官の命令で林冲(女の子)を責めている図だそうだ。

「いや昔、瑣吉(さき)っつぁんが面白ぇ趣向で水滸伝を描いたの思い出してな。あん時ゃ熊吉の野郎が絵をつけてやがったが、どうも似たようなのがウケるみたいでよ」

 そう語る北斎は、三国志の武将を美少女化したゲームのアンソロジーを広げていた。

 後で調べると「傾城水滸伝」という作品があった。
 、瑣吉(さき)っつぁんこと滝沢馬琴が書いた合巻本で、熊吉こと歌川豊国とその門弟が画を担当している。梁山泊の武侠達を、鎌倉時代の女傑に見立てて描かれたこの作品は江戸の街でメチャクチャヒットし、版木が摩耗するほど出版されたらしい。

「美少女化ってジャンル、江戸時代にもうあったの……」

 藍佳は、先人たちの偉大な発想力に改めて舌を巻いた。