「わからない。でも、いちばん好きな人とは結ばれないものなんだって」
「そっか」

祥の言葉が、妙にすとんと心に落ちた。同時に、結婚前夜にそんなこと俺に言っていいのかって思う。

だってそれはつまり。祥が今もいちばん好きなのは──。

だけど真実は、俺と祥の心の中にしかない。

「ねぇ、優也。ブレスレットはまだつけててもいいかな?」
「いいんじゃない? それは、おとうとがねーちゃんにあげた、誕生日兼クリスマスプレゼントだから」

祥の左手首には、俺がプレゼントしたブレスレットが鈍く光っている。就職した年に、祥に何かカタチに残るものを渡したかった。

年に数回実家に帰ってくる度に祥の手首に光るそれを見て、もしかしたら祥も……、とほんの少しだけ期待していた。

だからといって、明日結婚式を挙げる祥の運命は変わらない。それから、俺の運命も。

「祥。俺が、世界で一番にお前の幸せを願ってる」
「あたしもだよ」

そっと手を握ったら、炎の灯に照らされた祥が泣きそうに笑った。祥に笑い返す俺も、たぶん同じような顔をしてたと思う。

気付けば、日付が変わっていた。

俺たちが家族になったのは、十六年前の八月八日。両親が再婚したのと同じその日に、祥は結婚する。他の男の家族になる。

八月八日は末広がりの日だから、幸せを引き寄せるって。

だからどうか……。俺がいちばん好きな人が、幸せになりますように。

fin.