結婚式前日の夜。俺の部屋に入ってきた姉の祥が、いきなり三冊のノートとライターを突きつけてきた。
「秘密を消すのを手伝ってくれないかな?」
「何だよ、急に。結婚前に、浮気の証拠でも隠滅すんの?」
冗談で笑ったのに、祥の顔は真剣だった。
「実はあたし、ずっと優也に隠してたことがある。だから、一緒にその秘密を消してほしい」
俺は深刻そうに話を続ける祥を見つめて、困り顔で頭を掻いた。
だって、ちょっと前までいつもどおりだったじゃん。
「家族みんなが揃う最後の夕食だから……」って、母さんが用意した特上牛のすき焼きを、子どものときみたいに肉の取り合いをしながら食った。
半年ぶりに会っても変わらない祥に「旦那の前ではもうちょっと遠慮深くなれよ」って言ったら、「こんな姿、優也にしか見せないし」って大口開けて笑ってた。
それが、今はまるで明日にでも死ぬんじゃないかって目をしてる。
明日は待ちに待った結婚式だろ。それなのに、いったい何──?
祥が泣きそうに顔を歪めて、さらにノートを突き出してくる。
「お願い、優也にしか頼めない」
差し出されたそれに手を伸ばすと、祥が泣きそうに唇の端を引き上げた。