「えっと……ここは及川学生寮です」
「聞いたこともねえ。この部屋はいったいなんだ。お前の服は異国の物か。……さては、俺を異国に拉致したな!?」
突然声を荒らげた彼は、左手で自分の周辺を探った。目線は私をとらえたままだったけど、そのうち宙を泳ぎだした。
彼は何もつかめなかった左手を見て、叫んだ。
「刀がねえ! てめえ、俺の刀をどこにやった!」
つかみかかってきそうな勢いの彼に、私は目を白黒させる。
「ええと、危ないので預かっています」
「なんだと。お前は何者だ。ここはどこだ。いったい俺は……」
彼はもう一度周囲を見回し、頭を抱えてしまった。頭痛がしてきたのはこっちの方だ。
うーん、この人本気で言っているように見えるけど、どうなんだろう。コスプレで何かのキャラになりきっているだけ? だとしたら、本当に危ない。
「私はここの管理人です。ここは日本にある、学生寮です」
「学生寮?」
「十代後半の男子が親元を離れ、ここで共同生活をしているのです」
できるだけ冷静に話そうと努めると、彼も怪訝そうな顔をしながらも、少しずつ落ち着いてきた。
「日本か。とんだ近代建築だな。京では見たことがない」
「京……京都ですか。ここは愛知です。昔で言うと……三河、かな」
「三河だと?」