寮にいる子供たちは、規則を平気で破る。まあ、規則といっても及川氏がゆるゆる……じゃない、大らかなので「人を殺さない、門限を破らない」くらいしかないけど。

 人殺しは今のところ出ていないけど、小さなケンカはしょっちゅうだ。彼らは荒くれ者の集団といった感じで、職員も手を焼いている。

 土方さんと私は、並んで夕食の準備を始めた。今日のメニューはハンバーグ、その他副菜だ。

 お味噌汁担当の土方さんは、器用にねぎを刻みながらこちらの手元をのぞいた。

「それは肉と何を混ぜている?」

「卵、パン粉、豆腐、玉ねぎとえのきのみじん切りです。豆腐やえのきを肉より多くすると子供に気づかれるので、絶妙な配分でやるのがコツです」

 及川氏の方針で、寮では栄養バランスを考えた食事を出すことになっている。栄養士が作った献立に沿って、三品から四品を作る。

「ふむ。代われ」

「え?」

「そっちの方が力がいるだろう」

 土方さんは手を洗い、私の肩を後ろから持って、すっと左に寄せた。私が呆然としている間に、土方さんはぐいぐいと巨大ボウルの中の材料をこねはじめた。

「ありがとう……」

 新選組副長。当然、人を斬ったこともあるだろう。殺人犯と一緒に暮らすことに怯えていたのは最初だけで、最近はまったくそれを感じなくなっていた。

 彼は責任感が強く、意外に優しいところもある。