今にも走り出しそうな土方さんの手を握った。まだ熱があるのだろう。信じられないくらい熱い。
「くそ……!」
彼は突然床に膝をついた。熱が辛いのかと思いきや、彼は予想外の言葉を口にした。
「このまま何日も経てば、帰れても切腹だ」
「はい?」
「新選組の鉄の掟、局中法度。一、隊を脱するを許さず」
ええとつまり? 脱退するなってこと? アイドルだったら「卒業して別の事務所に行くなよ」とか、そういう意味?
「大丈夫ですよお。脱退するわけじゃないし」
「このぼんくら! うちの隊じゃな、無断外泊をしただけで切腹なんだよ!」
ええ~、厳しい。まあ、うちの寮でも無断外泊なんてもってのほかだけど。切腹はもちろんない。せいぜい寮長のお説教とご飯抜きくらい。
「でも土方さん、副長なんですよね。偉いんでしょ。なんとかなりますよ」
「その掟を作った張本人が隊規を破って平気な顔をしていられるか。隊の結束が乱れるだろうが」
どうやら、厳しい規則を作った張本人が土方さんらしい。そりゃあ、なんて言うか……ね。校長先生が禁止されているスカート丈で歩くようなものだね。違うか。
「……仕方ねえ。潔く切腹しよう。おい、脇差をよこせ。誰かに介錯を頼む」
介錯……ああ、時代劇で切腹するひとの首を刎ねる人のことね。って、そんなの令和におるかい!