明治三十一年。

 子爵(ししゃく)一橋家の娘としてこの世に生を受け、十六になった私は、毎日の掃除が嫌いではない。

 お屋敷の廊下をタタタッと雑巾(ぞうきん)片手に駆け抜けるのは、お茶の子さいさい。


「あや、廊下の掃除をさっさと済ませて、庭を掃きなさい」


 奥の十二畳もある広い部屋から声だけで指示を出すのは、母・みねだ。

 母は、私が音を立てて廊下を掃除するのが苦手らしく、母の部屋の近くだけは足音を立てないように気をつけている。

 それでも敏感な母は気がつき、なにかと仕事を押し付けてくる。


「わかりました。お母さま」


 ひとつ上の姉・初子さんは、小さな頃から一度たりとも雑巾がけなんてしたことがない。

 けれども、私は文句を言ったりはしない。
 自分の立場をわきまえているからだ。


 私が自分の出生について知ったのは、尋常小学校四年のときのことだった――。