『誰にも告げずに、この街を出たのには理由がある。金の瞳の狼と、月夜の晩に出会って恋をした
。歌のとおりにね。神に仕える巫女がそうであっていいはずが無いと厳格な姉は自分を律した。このまま神に仕えていていいはずが無い、と。妹はそれに気付いていて、素知らぬふりをした。妹が知らぬふりをしていることを知っていながら、姉はそれに甘えてこの街を出た。情熱の末の駆け落ちと言ってもいいが、言い換えれば、噂から逃げたんだとも言えるかもしれない』

歌のとおり、情熱的な恋だったことに違いはないだろう。
残される妹のことを心配もしただろう。
けれどそれでも彼女は、赤魔女は、その身にほとばしる熱をとった。

『ひとつ、歌と違うことといえば、妹は姉を探し出そうとはしなかった、と言うことだ。妹は姉がこの街から去るだろうと予期していた。だからただひたすらに自分を研鑽し、最上位の巫女となり他の誰にも文句を言わせず、そして、継ぐ巫女を取ることを辞めた。自らの代でこの街の巫女を無くし、元巫女だろうと、誰もが隔たりなく暮らせるように。他の巫女がいなくなった頃、妹も旦那を貰い、1つの店を開けた。それがこの、白薔薇だ』

白薔薇の店主は、つまり、巫女の末裔。
舞は親から子へ。
この話も、親から子へ。

年始の舞は当時のままの舞だという。

『アタシは巫女の、歌で言うところの白魔女の子孫。巫女としての役を降りたときに妹は、姉の無事を祈り舞った。その舞はアタシの中にも息づいている。そしてね、タキ』

言わないほうが楽だとも、言ったほうが楽だとも一概には言えないけれど、取った行動は自分が選んだことなのだ、という責任は持たなくてはいけない。
タキにこれ以上の傷を負わせることになるかもしれないし、居なくなってしまうかもしれない。
タキの瞳はアタシがこれかは何を言うかなどとうに分かっていて、それでも受け入れてくれそうな暖かなものだった。

『タキはおそらく、赤魔女と、金の……晩の狼の子孫だろうとアタシは思ってる。その瞳が始めに金の色を出したのは狼の血が強かったのだろうよ。人の心の深淵を覗くのは赤魔女から引き継いだ神の気を読む力が働きかけたものかもしれない。そして家族の死をきっかけに、赤魔女の血が表に出た』

『そうか』

一言そっと呟いて、タキは瞳を閉じた。
そしてアタシの頭を抱き寄せて、頭上で『ありがとう』と声が聞こえた。

結果として、タキはお伽噺の延長のような話を受け入れてくれたのだが、あくまでもそれは結果論でしかない。
同時にアタシは一つの予感を覚えた。
祖先が感じたのと、同じ予感を。
何かがあればタキはここから居なくなるのだろう、と。