ところで、と前置きした魔女は、またニヤリと口元を歪めた。

「気づいておらぬようじゃな。髪を見やれ」

「――髪?」
なんのことかと、後ろに一つで縛ったままの自分の髪に手をかけて見てみた。すると――。

「これは……」
なんと、黄金だった髪が毒々しいほどの赤毛になっている。

「ほれ、よくご覧。これが今のお前の姿だ」

魔女が杖で鏡を現した。
見れば、そこに映っているのは、赤い髪に漆黒の瞳をした女だ。

「これが、私か?」

「ああ、お前はもう王女ではない。よかったのぉ?」

「よかったとは、どういうことだ?」

「王宮での暮らしは嫌だったのだろう? あの紅い花は、手にした瞬間の気持ちを叶えるのだよ」

「私が望んだというのか? こうなることを?」

「まぁ、そういうことになるねぇ」

そう聞かされても、怒りが心に浮かばなかった。

「ほう。心当たりがあるようじゃのぉ」

そういうことなのかもしれない。
舞踏会から逃げ出した時には、いっそ蒸発しようとすら思ったのだから。

己が心をまざまざと見せつけられた気がして、力のないため息が漏れた。

「それで、もとに戻るには?」

「お前の心次第じゃな。お前の飢えた気持ちが満たされた時、お前が本気で戻りたいと思った時。戻れるのはそんな時だ」

「餓えた気持ち……」

「じゃあ、これは私からの餞別じゃ」
魔女がポイッと投げてよこしたものは、コインだった。