照り付けるのは灼熱の日差し、肌を撫でるのは湿気混じりの熱風。見渡す限りの大海原。
 中東の夏は女性には決して優しくない。

「オネーサン、コレヤスイヨ」

 二週間ぶりの補給船。物資を運び終えた船員の片言の日本語に、同僚の田宮さんと歩きながら会話していた私は足を止めた。男の片手には手の形をしたシルバーアクセサリーがぶら下がっている。
 どうやら、小遣い稼ぎに私にお土産を売ろうとしているらしい。あと少しで私が日本に帰ることを知っているのかもしれない。

「これ、ハムサ?」

 ハムサとは、この地方に伝わる邪眼から身を守るお守りの一種だ。手のひらに目が描かれた独特のデザインをしている。

「ソウ。デモ、コレトクベツ」
「どう特別なの?」
「コレ、トクベツ」

 男は首をかしげて同じ言葉を繰り返す。どうやら、これしか日本語を覚えていないらしい。