その偶然に興奮したのか、それまでかしこまっていた彼女の言葉がくだけた。
「よかったー、早速知り合いができて」
 彼女は胸に手を当て、ほっとした表情を浮かべる。
 たぶん、いままでずっと緊張してたんだろうな。
「名前は?」
 思わず聞いた。
「え、あの……」
 さっき自己紹介したけど、という表情で彼女が口ごもる。
「下の名前」
 ずっと気になっていて。
 どうしても聞かずにはいられなかった。
「あ、ああ……」
 彼女は、そういえば言ってなかったなと気付いたようで、
「ゆずき」
 背筋をピンと伸ばした。

「水島――ゆずき」

 その名前を耳にした瞬間。
 どこからともなく優しいピアノの旋律が流れ始めるように。
 軽やかな風が吹き抜けた。