「って、いきなり話しかけちゃってごめんなさい」
 僕の緊張はやっとほぐれつつあったのに……。
「わたし、今度この学校に転校してきました――水島(みずしま)といいます」
 両手をスカートに当てて丁寧にお辞儀する彼女を見て、再び胸のざわめきを覚えた。
 転校――生。
「変なタイミングなんですけど、両親の仕事の都合で。それで今日は、手続きと見学を兼ねて」
 両親はご健在なんだ……。
 ゆずきと彼女の境遇を比べている自分にはっとする。
 目の前のこの子は、ゆずきじゃない?
 ゆずきに似た誰か?
「あの……」
 口がカラカラに乾いていた。落ち着け。
「藤井コウ」
 ぶっきらぼうに名前だけ名乗ってしまった。
「高二で、演劇部」
「えっ、高二? 何組ですか」
「一組」
「ほんとに!?」
 彼女の顔が、花を咲かせたようにぱっと明るくなった。
「わたしも!」
 同級生で、しかも同じクラスになるようだ。