「あの」
 そのとき、背後から声がかかった。
 なんとなく聞き覚えのある声。
 とてもやわらかくてあたたかな。
 いや、まさか……。
 空耳だよな。
 これはきっと、彼女のことを強く想い過ぎて聞こえた幻聴。
 おそるおそる振り返ると――

 制服姿のゆずきが立っていた。

「ごめんなさい、驚かせちゃって」
 彼女が申し訳なさそうに頭を下げる。
 その姿に息を飲む。
 頭が混乱した。何が何だかわからない。
 純白のシャツに胸の前できちんと結ばれたリボン。
 品よく着こなした紺のベスト。スカートから伸びる、白くきれいな足。
 さらさらと流れる長い髪に、美しい瞳。
「え、えと……」
 あのときと一緒だ。舌がもつれてうまく話せない。
「素敵ですね」
 ゆずきはフェンスに立てかけてあるセットを見た。
「舞台ですか」
 頬にかかった髪を小指で耳にかけ直しながら聞く。
 これは夢か、幻なのか……?