桜のような君に、僕は永遠の恋をする

 一穂とふたりで話した日から、さらに二週間。
 僕は大道具の制作に打ち込み続けた。
 時々休憩がてら部室の稽古にも足を運んで。
 そこで役者たちの芝居を見ながらセットのイメージを調整して。
 同じ大道具を担当する後輩たちとも進み具合や出来のチェックをして。
 なんとなく僕は、演劇部のみんなと話す機会が増えた。

「やっとできた」
 僕は西日を浴びてひとり立っていた。
 高校の屋上、西側のフェンスに立てかけられた舞台装置のパーツ。
 日が西の地平線に隠れようとしている。
 あの日と同じ、マジックアワー。
 橙色から始まって、白、薄い水色、それから紺色に彩られた空。
 こんなにきれいに色づく時間は、一日の中でごくわずか。
 なんだか神秘的な光景だった。
 組み立てはこれからだけど、やっと完成した。
 いままでにない、舞台の世界観を印象付けるセットが。
 額の汗を拭った。
 これ見たら、みんなどんな反応するかな?
 後輩たちはきっと、感動するにちがいない。
 部長は褒めてくれるはず。
 ダンディーならどうだろう。ただニヤつきながら眺めてそうだ。
 一穂は……喜んでくれたらいいな。
 それから、
 ゆずき――。
 彼女がいなくなってひと月が経つ。
 最近は、ゆずきの夢を見なくなった。
 その代わり、気づけばぼんやりと、一緒に過ごした日々を、振り返ってたり。
 これから先、彼女と歩みたかった未来を想像したりすることも増えた。
この喪失感は、いつか時が消し去ってくれるんだろうか。
 明けない夜はない、癒えない傷はないって、失恋ソングの定番みたいなフレーズが頭の中をぐるぐる廻るときもあるけれど。
 でもこういう気持ちもゆずきとの記憶も、もし全部リセットされてたら、それはそれですごく寂しいことだと思う。
 だから、よかったんだ――、
 ゆずきを想い続けることができて。