「何が」
「藤井くんだよ」
「え、僕?」
 思わず手を止めて一穂を見た。
 直視されたらどきどきして、視線を外してしまいたくなるほどの目力の持ち主。そんな彼女がいまは、優しい眼差しで僕を見つめていた。
「だって、前はあんまりひととかかわろうとしなかったし、自分は自分って感じだったじゃない」
「そうかな」
「うん、そう見えた」
「そっか……」
 一穂からのダメ出しにはやっぱりヘコみそうになる。
「あ、でもね」
 うつむきかけた僕に、彼女は続けた。
「いまはすごくみんなと繋がろうとしてる気がする」
 一穂に直接言われると、なんだか照れくさい。
「そういうの、いいと思うな」
彼女が笑った。
 僕は「ども」とつぶやいて、黙々と作業を続ける。
 このモニュメントは、演劇部みんなのためでもあったけど……もうひとつ、別の思いもある。
 何って……、
 彼女が――もしもゆずきが戻ってくれたときに、心から感動してもらえる世界を作りたかったんだ。
 それが叶うかわからないけど、でも、そうやっていま自分にできることをしていたかった。
「邪魔しちゃった。そろそろ行くね」
 一穂が腰を上げようとしたとき、
「ねえ」
 僕から彼女を呼び止めた。
 たぶん、初めてのことだった。
 当の一穂も意外だったようで驚きを隠さない。上げかけた腰を再び下ろしてしゃがみこんだ。