そして楓は、ゆずきが現れる前と同じように、僕にはずっと一穂との交際を隠していやがった。そんなのお見通しなんだよ、って言いたくもなる。なにせゆずきが消えた日の記憶は、僕にだけ残ってるわけだし。
 これって、どんだけいびつな関係なんだ。
 だからいっそうのこと、こっちから触れてやった。
『気づいてたのか』
 一穂と付き合ってんのか? って切り出したとき、楓はやっぱりいつもと一緒で感情を露わにしなかった。
『なんで黙ってた』
『なんで言わなきゃいけねーんだよ』
『十年来の付き合いじゃんか』
『嫉妬されてもウザイだろ』
 って、全く同じやり取りだった。
 夕暮れの公園で、『ゆずきがいたとき』にした会話と。
 あのときは歯ぎしりしたが、二度目は噴き出しそうになった。
 シチュエーション変わっても、結局同じこと言うんだなって。
 楓はなんにも変わらない。こいつはこいつだ。ちゃんと自分を持ってる。
「それよりそっちは、また屋上?」
 編集し終わったのか、楓がスマホをズボンのポケットにしまいながら聞いた。
「ああ」
 今日も大道具の制作がある。次回の舞台も、後輩の脚本が選ばれた。まあ、今回僕は応募してないけど。