校内にチャイムが鳴り響く。
 いつも通りの放課後。変わらない日常。
 教室のみんながバタバタと一斉に席を立ち始めた。
 僕もカバンを肩にかけて廊下に出る。
「うっす」
 背後から肩を当てられ振り向くと、隣に楓が並んだ。
 ちょうど同じタイミングで廊下に出たようだ。
「おう」
 お互いに、いつもと同じ、そっけない返事。
 気の置けない腐れ縁はストレスフリーな関係だった。
「またアレ?」
 片手でスマホを操作する楓に聞いた。
 こいつは相変わらず自分のプレーをアップし続けている。
「ああ、アレだよ」
 侮蔑的ニュアンスを込めてやったつもりだったが、楓はまったく意に介さない。
 それどころか最近は、再生回数がぐんぐん伸びてるらしく、俄かに話題の動画となっている。校内の女子たちも以前に増してキャーキャー騒いでいた。
 まあ、こいつはこれまで通り、適度にさわやかなクールガイを演じているが。
「でも一穂、嫌がんない?」
 自分がカノジョだったら気にするよなと思って聞いてみた。
「何が?」
「その動画」
「なんで?」
「他の女が寄り付くじゃん」
「は?」
 だが楓は、言われてる意味がわからないといった顔で眉を寄せた。
「そんなん知らねえよ」
「お前が知らなくたって一穂が気にすんだろ」
 女子の気持ちちょっとは分かれよ、って言おうとしてやめた。
 どうせ、どの口が言ってんだよって反撃されるに決まってるし。
「なんも気にしないんじゃない?」
 楓は画面に目を向けたまま飄々と答える。
「あいつとはそんなヤワな関係じゃないし」
 そんなヤワな関係じゃないし――。
 って、なんだこいつのこの自信。