ゆずき……、ゆずき……、ゆずき……。
 僕は君に感謝されるようなことを何ひとつしてあげられなかった。
 君を喜ばせることも、楽しませることも。
 君は舞台で輝いた。
 僕が創作した君なんかよりも、よっぽど生き生きしてた。
 君はみんなを魅了して、楽しませてたのに。
 僕はそんな君のことを、心から祝福できなかった。
 楓の言った通り、僕は自分しか見てなかった。
 君が僕を称えてくれるのがうれしくて。僕は僕のために生きていた。
 ほんとに……ほんとに……バカだった。
 そんな僕が、君から「ありがと」だなんて。
 感謝するのは僕のほうだ。
 うだつの上がらない僕を励ましてくれて。
 君はいつだって笑顔で僕の心を照らしてくれて。
 ころころと表情を変える君は、いつもかわいくて。
 いや……、
 まただ。
 また僕は自分のことばかり。
 情けなさに鼻の奥がツンとして、また熱い何かがこみ上げてくる。
「ああ、あぁ……ああ……」
 こらえてもこらえきれない低い唸り。
 いまにも消え入りそうなゆずきを前に、後悔ばかりが押し寄せた。
 早く言わなきゃ。
 この世から完全にいなくなっちゃう前に。
 ゆずき……、
 ああああぁぁぁぁ……。
「ありがとう」
 ひとにとって本当に大切な生き方は、ひとを幸せにすること――。
 ゆずがそれを教えてくれた。
 ああ、でもな……。
 もっと早く気づけばよかった。